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国吉澄夫教授一覧

中国ビジネスの事業環境と中小企業の課題について(中国経済と産業/国吉 澄夫)

10/07/19

■中小企業の対中進出の課題(信金中央金庫の調査)

アジアとのビジネスの裾野が広がるとともに、この数年、
中小企業のアジア進出、中国進出が増加していますが、
同時に様々な課題があるのも事実と思えます。

中小企業向けに融資やコンサルティングなどを行っている信金中央金庫が、
取引先企業1488社を対象に行った2009年海外進出状況調査の結果が
最近報告されました。それによると、まず、中小企業の海外進出先としては
圧倒的にアジアが多く89.5%、その中でも中国が56.5%と圧倒的です。
次いで、アセアン(ASEAN)が20%、今話題になっているインド投資は
中小企業にとっては、まだまだ様子見といった所か、0.1%にしか過ぎません。
進出企業の業種別ではやはり74%と製造業が多く、非製造業は26%です。
製造業では相変わらず、機械、電気、輸送機が中心です。

進出の動機としては、やはり低廉豊富な労働力53%、
日本国内市場への製品供給43%、現地・周辺地域市場向け販売36%などです。
業績については、国際金融危機の影響もあり、07年の調査に比べて
09年は悪化の傾向はありますが、それでも「良い」「やや良い」が33%と
「悪い」「やや悪い」の20%を上回っています。
中小企業の立場でも、今の段階でのアジア進出には、
まだメリットがあると見ているようです。

進出企業の抱える課題を、中国進出企業に絞ってお話ししますと、
①現地社員の教育47%、②人件費の上昇38%、③為替変動25%、
④現地工場の生産性22%などとなっています(複数回答)。
2009年に新規に進出した企業にとっては、
上記に加えて「現地社員の確保」という課題も挙げています。
それ以外にも文化・習慣の違いとか、販売不振、
派遣する日本人の選定や教育という問題も挙げられています。


■地域で情報共有の仕組みを

実は、信金中央金庫の調査とは別に、最近私も東京のジェトロ(JETRO)で、
「中小企業の中国事業環境」という視点で、企業関係者と
何度か議論をする機会がありましたが、その席では、
中小企業の「対中投資の情報不足」という問題点も挙げられました。
大手企業はこの10数年対中進出で蓄積したノウハウで自社内体制を
作り上げているのに対して、中小企業にそうしたノウハウ蓄積が
不十分で、かつて大手企業が経験したトラブルを繰り返したり、
撤退を余儀なくされたりというケースも多々あるようです。
過去のトラブルをしっかり分析して、企業同士が横で、情報を
共有していく仕組みが産業界全体として必要なように思えます。
また、中小企業側も、行けば何とかなると安易に考えずに、
そういう情報をしっかり掴んでほしいと思います。
全国一本で情報を共有することは難しいかもしれませんが、
例えば、中小企業の進出が多い九州というエリアで、
どう情報・ノウハウ、或いは経験を共有していくか、
また、どうアジア・中国事業の地域専門家を育てるか
といった人材育成プランをまとめていく仕組みが必要と思います。

以前から、九州大学ビジネススクールと私共のアジア総合政策センターが
一体となって、九州・中国ビジネス研究会(ICABE)を進めている
という話をしていましたが、先程述べた問題に対して、
もっと踏み込んでいこうと考え、社団法人化を行いました。
新しく立ち上げた一般社団法人 九州・アジアビジネス連携協議会では、
こうしたニーズを取り込みたいと考えています。


■最近の中国の労務問題と争議

ところで、中小企業の抱える課題としてこれまでは「労務問題」は
余り挙げられていませんが、今後は増加してきます。
2008年からの新労働契約法の施行以降、
労働者の権利意識が強まり、労働争議も多発しています。
他方、無理な生産性向上やノルマ達成強要が
労働現場で問題を引き起こしている例もあります。

最近新聞でも話題になっています台湾の大手EMS企業
《電子生産受託会社》「鴻海(ホンハイ)精密」の
中国現地企業富士康(Foxcom)工場での自殺者多発問題です。
この会社は日系企業も含む各社の委託生産を手掛けている会社ですが、
自殺者はiPodやiPadを生産している米アップル社の
委託生産ラインに集中し、この1年で10人余と多発しています。
対策として、人件費の30%アップといった対症療法が取られていますが、
背後に厳しい納期・コスト管理など特有の問題点がありそうです。
しかし、アップルのスティーブ・ジョブズ氏というCEOは、
「自殺者の比率は中国の他の工場に比べて決して多くない」
と言い訳をしたそうです。
CSR(企業の社会的責任)の視点から見れば、大きな問題ですが、
「人権」にうるさい米国関係団体からも
特にアップルを批判する声は出ていないのも不思議です。

日本の中小企業もこれを「他山の石」として、自社の事業と
「社会的責任」を上手く調和させた進出を考えるべきでしょう。

分野: 国吉澄夫教授 |スピーカー:

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