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普天間と鳩山退陣 (財務戦略/村藤 功)

10/07/02

鳩山首相が退陣し、新しく菅内閣が発足しましたが、普天間の問題は全く解決していません。
しかし、鳩山首相は「最低でも県外」を民主党の公約ではなく、
首相の個人的な考えだと言明した上で辞任したため、
普天間問題に関して鳩山内閣と菅内閣が置かれている状況は若干異なります。


■普天間移設の経緯
鳩山首相は2010年5月末に自民党政権時代の2006年に決まった、
普天間基地を辺野古の海に移転する案を履行するということで、アメリカ政府と合意しました。
合意してすぐに反故にするわけにもいきませんから、
菅内閣としては鳩山内閣の合意をとりあえずは踏襲する方針です。
しかし、沖縄ではこの合意については反対も多く、本当に実行できるかどうかは分かりません。

そもそもこの移設問題は、1995年に起きた米兵3人による少女暴行事件に端を発しています。
これをきっかけに、当時の橋本首相が普天間返還の原則合意を取り付け、
10年近く時間をかけて2006年の日米合意に至っています。
鳩山首相はこの合意を簡単にひっくり返せると思っていた節がありますが、アメリカ政府からすると、
自民党と約10年の年月をかけて結んだ合意をまた一からやり直すのかという話です。

そもそも、沖縄県も喜んで米軍基地を引き受けているわけではありません。
政府からの要求で我慢していたところで、「最低でも県外」と鳩山首相が言い出したため、
期待していたところで話が白紙に戻ってしまったために怒っているという状況です。
2010年1月に行われた名護市長選挙でも、民主党推薦で受け入れ反対の稲嶺氏が、
受け入れ条件付き賛成の立場だった現職の島袋氏を破って当選しました。
沖縄の民意は受入反対で明らかになったわけです。


■米軍基地と沖縄
とはいうものの、日本国内にアメリカ軍の基地を置く、
というこの意味もきちんと考えておかなければなりません。
日米安全保障条約に基づいて日本国内に米軍基地が設置されていますが、
日本がアメリカに「自分の国は自分で守る」と言ってしまえば、米軍基地は国内に必要ありません。
しかし、今のところそのようには話は進んでおらず、
条約を結んだ自民党だけではなく民主党もアメリカに守ってもらおうという意見になっています。

この安全保障条約は、アメリカが日本を守り、その代わりに基地は日本が提供するという内容です。
実のところ、日本はアメリカを守るという義務を負っていません。
そのため、基地を提供しないということは、条約の内容に反しているということでもあります。
現状の普天間基地は沖縄県萱野湾市の住宅密集地の中に位置しています。
2004年8月には同市の沖縄国際大学にヘリが墜落したといったトラブルも起きています。
このような事件が積み重なって、他の場所に基地を移転しようという動きに結びついています。

日本国内にあるアメリカ軍の基地や関連施設の約75%は沖縄県に集中しています。
これには、第二次世界大戦終戦後にアメリカが沖縄を占領して、
一方的に土地を確保して基地を建設したということが大きく影響しています。
日本が沖縄をアメリカに差し出したというよりは、終戦後にアメリカが持っていたのが沖縄であり、
沖縄返還後もアメリカは基地のある土地を元の地主に返していません。

今回の騒動では色々な場所が沖縄以外の候補としてあがりましたが、
米軍基地を引き受けるのはどこだって嫌に決まっています。
普天間基地の約9割は民有地です。
沖縄以外にあるアメリカの基地はほとんどが国営地に設けられています。

普天間の場合は、占領の時にアメリカが土地を押さえてしまいましたが、
1952年のサンフランシスコ講和条約の発効で、
米軍に地主との交渉と地代支払いの義務が生じました。
しかし、米軍の提示した安い地代に地主が納得しなかったために、
土地を強制的に接収して、それが今日まで続いているという状況です。


■代替案
沖縄県内で候補地にあがっていたキャンプ・シュワブ海上案は、
沖合にはジュゴンがいるといわれており、簡単には移設できそうにありません。
対して、キャンプ・シュワブ陸上案は既存の基地に移設するということで、これを推す声もあります。
しかし、キャンプ・シュワブは住宅地に近く、騒音や墜落の可能性といった、
普天間の問題を単に名護市に移すだけではないかということで反対の声が出ています。
鳩山総理は全国知事会に移設について負担を打診しましたが、
自らOKという知事がいるはずもありません。
橋下大阪府知事は条件次第では引受けるとも口にしていますが、
どのような条件かは明言していません。

また、社民党は、グアム移設案を提案しています。
もし、アメリカから守ってもらうのではなく、自国のことは自分で守ると方針を転換するのであれば、
普天間をグアムへと海外移設するという案も現実味を帯びてきます。
しかし、普天間問題の中でそのような議論が出てきていない以上、「グアムに行け」とはいえません。

中国や北朝鮮で有事が起こった場合に、
沖縄に米軍基地があるのと無いのとでは大きく話が変わってきます。
東南アジア諸国にとっても、沖縄の在日米軍は、
アジアの安定を保ってくれるという重要な役割を担っています。

基地問題については、日本全体で考えなければならないと、
言われ続けていますが議論はあまり前進していません。
仮に日本が自分で自分のことを守るとなると、防衛費は10兆円と従来の2倍近く必要となります。

果たして、防衛費にそれ程の額をかけるべきなのか、
今回の問題をきっかけに、財政面も含めて議論しなければならない局面に来ていると思います。

分野: 村藤功教授 |スピーカー:

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