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保育問題 (財務戦略/村藤 功)

10/03/05

働く女性が増えてきている中で保育園のニーズは増加しています。
今日は保育問題についてお話しします。


■子ども・子育てビジョン
幼稚園の場合、3年保育が始まるまでは子供を預けられないということや、お昼を過ぎたら、
子供を迎えに行かなければならないということで、母親はなかなか働くことが出来ません。
そのため、母親が働き始める時には子供を保育園に通わせる、というのが1つの流れとなっています。

厚生労働省は、保育園では保育に欠け、保育を必要としている児童を預かるとしていましたが、
現状では普通の母親が働くために子供を保育園に入れて幼稚園が定員割れを起こしています。
保育園については厚生労働省が様々な基準を設け、
これを満たした保育園を「認可保育園」として認可し、認可された保育園は、
多くの補助金をもらえるという仕組みになっています。

元々は、公営の保育園が多く母親からも高い人気を得ていましたが、
最近は私立の保育園も随分と増えてきています。
これには、私立保育園でも厚生労働省からの認可を得られるように、
制度が変わったことが影響しています。

また、政府は2010年1月に「子ども・子育てビジョン」を発表しました。
この中では、保育所の定員を現行の215万から5年間かけて、
26万人増の241万人にする、と明記されています。
それとあわせて、子供家庭省の設立も言及されていました。
そもそも厚生労働省が保育園を、文部科学省が幼稚園を、
それぞれ管轄しているということ自体がおかしいといえます。
政府は両園の一元化を目指して、2011年度に法整備を進め、
福島瑞穂氏を担当大臣とする方針です。

このような動きはありますが、経費として見込まれている約7000億円の財源がない状態なので、
本当に議論が進むのか、少し心配なところではあります。


■認定こども園
2006年の10月に幼稚園と保育所の機能を一緒にした「認定こども園」という制度が出来ました。
幼稚園と保育園をあわせると全国で総計36000ヶ所に上りますが、認定こども園の数は、
2007年度4月に94ヶ所、2008年度4月に229ヶ所、2009年度4月で358ヶ所に過ぎません。

認定こども園設立目標の10%、全体の1%位しか認定こども園になってないという状況です。
幼稚園には子供を長い時間預けられないという制約、
保育所には子供への教育が出来ないという制約がそれぞれあります。

しかし、幼稚園が認定こども園になると、子供をもう少し長い時間預かることが、
出来るようになりますし、保育所が認定こども園になると、
預かっている子供たちに色々なことを教えることが出来るようになります。

現在、文部科学省が幼稚園を、厚生労働省が保育所を監督する立場にあります。
保育の問題を解決するために、民主党の言うように、子供家庭省を創設し、
厚生労働省と文科省の関係部署をそこに移管する、というのは1つの方法だといえます。

もう1つの方法としては、これまでどの子供をどの保育園に入れるか、
ということを決めていた市町村に、その他の仕事も丸ごと投げてやってもらう、という手があります。

従来のような、2つの省が管轄する運営は最悪だといえます。
例えば、これまで幼稚園は学校法人会計基準に基づく会計書類を、
保育所は社会福祉法人会計基準に基づく会計書類を作成するよう義務付けられてきました。
そのため、こども園は、保育園や幼稚園と同じことをやっているのに、
2種類の会計書類を作成しなければなりませんでした。
その上、2つの書類を別々のところに提出して、その書類に関して、
色んなことを言われるため、非常に面倒な状況でした。

認定こども園は、子供を預けるお母さんにとっては便利な話ですが、
運営側にはあまりメリットがありません。

幼稚園が認定こども園になる場合、0歳児の受け入れや、
夕方までの保育を行わなければならないため、増員が必要になってきます。
更に、保育園は認定こども園となることで、子供に教育をしなければなりませんし、
今まで市町村が行っていた保育園の園児の募集や利用料の徴収を、
自分でやらなければならず、事務作業が増加してしまいます。
このように、認定こども園になることで、仕事は増えますが、
補助金の額は増えないため園の財政は厳しくなります。

まさに、認定こども園の設立数が幼稚園と保育園総数の1%と低調な理由は、
認定こども園となるメリットがないためだといえます。


■資格要件の緩和
保育士となるためには保育士資格が、幼稚園で先生として働くためには、
幼稚園教諭免許がそれぞれ必要となります。
とはいうものの、現場で働く先生方にとってはそれ程難しい試験でもないため、
両方とも取得するということが、特に若手の人達の間ではどんどん起こっています。

ただベテランの先生にとっては、これまでの幼稚園教諭免許に加えて、
保育士資格を取得するということや、逆に保育士に加えて、
幼稚園の資格を取るというのは、割と手間のかかる話です。

そのため、厚生労働省と文部科学省も話し合い、相互に取りやすくするため、
2009年度の試験から順次条件を緩和することになりました。
また、会計書類の一本化も起こっています。

しかし会計要件や資格要件の緩和のように、2つあるものを緩和するというアプローチでは、
いつまでたっても2つの省が規制を継続することになってしまいます。

そういう意味では、民主党が提言するような子供家庭省の設立や、
思い切って市町村に幼稚園や保育園を任せるというように、早く一本化することが必要です。


■待機児童の解消に向けて
認定こども園が増えない中で、保育所は高い人気を保っています。
これを受けて、厚生労働省は、認可保育園の設置基準を約60年ぶりに緩める方針を固めました。
この基準緩和は、設置基準を廃止するのではなく、厚生労働省は、
設置には関与しない代わりに新たに設ける基準を都道府県の判断に委ねるという話です。

設置基準の緩和には、山のようにいる待機児童と、
子供を預かってもらわないと働けないと怒っているお母さんたちが影響しています。

2008年時点で、保育園に入園を希望しながらも、
入園できないという明示的な待機児童が4万人います。
また、自治体に申請していないものの入園を希望している潜在的待機児童を含めると、
待機児童は100万人にのぼるといわれています。

あまりに多い待機児童を何とかするために、色々と施策が企画・実行されています。
例えば、ミニ保育所の設立はその1つです。
ミニ保育所とは一つの主たる保育所を中心にして、
サテライトのように配置された複数の小さな保育所(分園)のことです。
主たる保育所には調理室を置かなければなりませんが、
保育所から30分以内の場所にあるミニ保育所には調理室を設置する必要はありません。

本園の基準を分園では緩和することによって、受け入れを増やして、
待機児童を少なくしよう、という考えです。

とはいうものの、こういった問題を解消するためには、早いところ、
厚生労働省と文科省のダブル管轄をやめるということが一番望ましいと思います。

分野: 村藤功教授 |スピーカー:

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