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パラダイムシフト~電気自動車の可能性~(イノベーションマネジメント/朱穎)

09/12/18

■電気自動車とその基幹部品

最近は環境に配慮した自動車について、
次々と新しいトピックスが出てきています。
今回はその中で電気自動車の可能性について、
お話しさせて頂きます。
環境問題と再生可能エネルギーの開発が、
重要とされている中で、電気自動車が、
最もホットな話題だと思います。
20世紀の自動車産業は大量生産、
大量消費を前提に発展してきたのに対しまして、
21世紀は環境問題と自然枯渇が顕在化し、
自動車のエネルギーも化石燃料から、
多様なものへと向かっています。
そして動力の主役もエンジンからモーターへと、
シフトするのではないかと予測されています。
しかし、それではいつ電気自動車の時代が来るのか、
ということについても非常に実は難しい問題があります。
これは今回のテーマではないため、
電気自動車の可能性へと話を戻します。

まず電気自動車の基幹部品についてです。
基幹部品としては電気モーターと、
二次電池があげられます。
動力であるモーターが自動車の性能を、
大きく左右しますので、今後は、
モーター開発がますます盛んになるのではないか、
と言われています。
更に、このモーターの付加価値が高まることは、
自動車メーカーにとって部品メーカーに基幹部品の、
技術的な主導権を握られてしまうリスクにも、
繋がりますので、今後は、
自動車メーカーとエレクトロニクスメーカーとの関係が、
注目されていくと思います。
そのような動きは既に始まっていて、
基幹部品となっていく二次電池、モーター、
マイクロプロセッサなどの電子部品について、
自動車メーカーがエレクトロニクスメーカーと、
協力・連携し始めています。
またエレクトロニクス業界の市場は、
基本的にオープンなので、自動車メーカーも、
そのような影響を受けざるを得ない可能性があります。
これは消費者にとってはよいかもしれませんが、
車を製造する自動車メーカーにとっては、
果たして望ましいかというと、話はまた違ってきます。

二次電池はもう1つの基幹部品、コア部品として、
挙げられていますが、これについても最近、
自動車メーカーとエレクトロニクスメーカーの提携が、
大変進んでいます。
この二次電池とはハイブリッド車と電気自動車にとって、
不可欠な部品であり、走行性能と航続距離に直接作用し、
車体コストにも重要な影響を与えるので、
次世代自動車の鍵となっています。
二次電池における自動車メーカーと、
エレクトロニクスメーカーの共同開発では、
トヨタ自動車が早く94年に松下電器産業と、
提携しました。
そしてパナソニックEVエナジーを設立したのです。
これは97年に発表されるプリウスの開発のために、
設立したという経緯があります。
ホンダも三洋電機からハイブリッド車用二次電池の、
供給を受けております。
日産自動車の場合、ゴーン社長は中期計画の中で、
2010年から日米で電気自動車とハイブリッド車の投入を、
打ち出していて、2007年の4月に、NECとの共同出資で、
オートモーティブエナジーサプライを設立しました。
神奈川県においてリチウムイオン電池の製造工場を、
現在建設中です。

このように、二次電池の開発と製造の立ち上げには、
自動車メーカーとエレクトロニクスメーカーの、
共同出資で合弁会社を作るのが、
典型的なパターンとなっております。


■バリュー・チェーンのシフト

2005年以降、自動車業界は大変な勢いで、
電気自動車開発の方向にフォーカスされていますが、
ここで注目すべきなのは、自動車メーカーと、
エレクトロニクスメーカーとの関係です。
電気自動車では、コストと付加価値の大半を、
二次電池が占めていると言われております。
自動車メーカーにとって、利益の半分以上を、
エレクトロニクスメーカーにもっていかれるような、
構造になってしまうとかなり困ります。
かつてIBMは、パソコン市場での出遅れを取り戻すために、
自社PCをオープンアーキテクチャとする、
意思決定を行いました。
その結果、インテルとOSソフト会社の、
マイクロソフトに成長の恩恵を分けてしまった、
という出来事がありました。
このような、もともと垂直統合型企業が、
主導権をとっている形から、個々のサブシステム毎に、
専門メーカーが活躍する形、いわゆる、
バリュー・チェーンのシフトが起こると、
その主導権と付加価値は従来の垂直統合型の、
最終組み立てメーカーから個別のサブシステムの、
専門企業の方にシフトしていくという傾向があります。

今後エンジンとトランスミッションを必要としなくなると、
このバリュー・チェーンが大きく、
変わっていくことになります。
自動車メーカーとしてはこうした事態を、
避けたいと思っているのは言うまでもありません。
そのため、提携によりエレクトロニクスメーカーから、
技術を吸収した後、自動車メーカーが、
独自に生産ラインを立ち上げる可能性も、
あるのではないかと考えられます。
例えば、トヨタ自動車ではパナソニック松下電器産業との、
合弁会社とは別に、2008年6月に、
電池研究部を社内で新設しております。
これはコストと製品の差別化の観点から、
二次電池はやはり内製しないといけない、
ということで設立されたものと考えられます。

基幹部品を外注するのでは、
先程のコスト・利益の問題があるのと同時に、
他社と差別化できないわけです。
そのため内製が大事であると判断し、
新型電池の開発を目指しているということなのです。

これからは自動車メーカーとエレクトロニクスメーカー、
更に半導体メーカーとの企業間関係が、
電気自動車の開発競争の中で様々に、
変わっていくのではないかと思います。

これは自動車業界自体が改革される、
といってもよい動きです。
大きなパラダイムシフトが起こっているため、
自動車メーカーの既存ビジネスモデルと研究開発は、
電気自動車の開発によって大きく影響を受けます。
電気自動車の普及には、当然時間がかかりますが、
その開発をめぐっては様々な潜在的可能性と、
チャレンジがあるのではないかと思います。
そのような部分に今後注目していくべきだと考えています。

分野: 朱穎准教授 |スピーカー:

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