QTnet モーニングビジネススクール

QTnet
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QTnet モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録

村藤功教授一覧

温暖化対策 (財務戦略/村藤 功)

09/08/21

■各国の削減目標
今回は、地球温暖化の対策についてお話します。

今のところ二酸化炭素(CO2)の排出量は吸収量の約2倍あるとみられています。
長期目標で2050年までにCO2の排出量を半分にしようと言っているのは、
これによりCO2の排出を吸収と同じ所まで下げて温暖化を食い止めようということです。

これに対して、中期目標には様々な考え方があります。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、
2020年までに20%から40%程度CO2を削減すれば、
産業革命前に比べて地球の気温上昇が2度位で止まるのではないか、
と考えています。

EUはこの考えを採用して、
2020年までに1990年比でCO2の20%削減を中期目標にしようとしています。
これは2005年比で換算すると13%の削減になります。

世界最大の温室効果ガス排出国であるアメリカはどうでしょうか。
1997年の第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で、
京都議定書が採択された際に、議会の反対により、
クリントン大統領やゴア副大統領の思惑とは裏腹に議定書が批准されず、
これまでアメリカは京都議定書に参加してきませんでした。

しかし、ブッシュ政権からオバマ政権に代わり、
温暖化問題に対して積極的な立場に方針を転換しました。
その結果、2020年や2050年の排出量削減目標を作ることに前向きになり、
アメリカは2020年までに2005年比14%削減を主張しています。

一方、日本はCO2排出を抑制する技術や施設を1990年以前に導入してきたため、
その後の削減余地は小さいとみています。
そのためEUのように基準年を1990年とするのではなく、
2005年にするよう主張しています。
また、欧米の2005年比13-14%削減から一歩踏み込み、
2005年比で15%削減を目標に据えています。

中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ等の新興国は、
これまで経済を発展させて温室効果ガスを排出してきた先進国が、
先に大幅な削減を進めるべきであるという立場を取っています。
中国は先進国に対して2020年までに40%削減せよと迫っていますし、
同じく中国やインドは、
「先進国は新興国の排出削減にGDPの0.5%を出すべきだ」と主張しています。

温暖化に各国が対策を講じている一方で、
「CO2の増加は継続しているが、
地球の平均気温の上昇が頭打ちとなり気候は当分寒冷化に向かう」、
という説もあります。
太平洋が高温期から低温期に切り替わったとか、
太陽活動が静かなことが原因とされています。
ただし、太平洋が高温期に切り替わる10-20年後に、
急速な温暖化が訪れるという見方もあるので楽観は出来ません。

■国際会議での成果
今年の7月にはイタリアのラクイラでサミットが開催され、
地球の気温上昇を、2度を超えない範囲に抑えるという認識で一致しました。
加えて、2050年までに温室効果ガスの排出量を半減させるため、
先進国が80%削減するという目標を明記しました。

2008年の洞爺湖サミットで、
温室効果ガスの排出量を2050年までに半減する、
という目標設定への合意が出来なかったことを考えると非常に対照的です。

一方で、途上国は2050年までの50%削減には合意できませんでした。
また、基準年について、ヨーロッパは1990年を主張しましたが、
日米は2005年を主張し、この点についても合意がみられず両論を併記しました。

また、京都議定書は2012年で期限を迎えます。
京都議定書以降の枠組みについて決定する予定の、
COP15がデンマークのコペンハーゲンで今年の12月に開催される予定です。

■排出権取引
いずれにせよ、温暖化対策に本腰を入れなければならないことは確かです。
最近では排出権取引が、議論にあがってきています。

2005年に始まったEUの排出権取引は、
2007年で約500億ドルと2006年比で倍増し、
世界の排出権取引の7割弱を占めています。

企業は予定より排出が増えたら排出権枠を買い、
減ったら排出権枠を売ることになります。
主たる参加者は電力・ガス会社で、
EUでは1トン当たり2千円前後で取引されているようです。

では日本ではどのように排出権取引は位置づけられているのでしょうか。
京都議定書は2008-2012年の5年で温暖化ガスの排出量を、
1990年比6%削減するように求めています。

6%のうち、3.8%は森林吸収分でまかなう予定でした。
しかし、日本の二酸化炭素の排出量は、
1990年から2007年度までに8.7%増加しており、
1990年から6%ということは今から14.7%削減しなければなりません。

そのため、京都議定書の1990年比6%削減目標は、
国内だけで達成するのは難しい状況にあり、
排出権取引で海外から排出権を買ってきて約束を守ろう、
という考えに段々なってきています。

日本では2008年10月から、
企業の自主参加による排出権取引の試行が始まりました。
企業が排出量目標を自主的に設定し、
経済産業省・環境省などで作る事務局がこれを審査するという仕組みです。

2009年8月までに2008年度の排出量を政府に報告し、
目標値を超えていた場合、
2009年末までに相対取引で排出枠を取引して目標達成を図ります。

2008年度の排出量実績は2009年10月中旬に確定しますが、
電力、鉄鋼、自動車、電機、流通まで幅広い業種から、
446の有力企業・団体が参加することになりました。

しかし、EUと違って目標達成が強制されるわけではありません。
目標を達成しなくても罰則は無く、企業名も公表されません。
これでどの程度CO2の削減につながるかは不明です。

金融危機で企業経営が苦しくなった中で、
このような自主的な制度が機能するのかどうか、
今ひとつ分かりませんが、とりあえず実験は始まったということでしょう。

分野: 村藤功教授 |スピーカー:

トップページに戻る

  • RADIKO.JP