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グローバル市場へのアプローチ①(国際経営・国際ロジスティクス/星野 裕志)

09/07/29

■市場のグローバル化

世界中で同じ製品が使われているものもあれば、
国や地域によって異なるモデルが使われている場合もあります。
基本的にコカ・コーラは、世界で同じ味ですが、
マクドナルドのハンバーガーは地域によって
かなりローカライズされているといえます。
宗教や習慣の差異を考えても、世界中でビーフの
ハンバーガーが食べられるわけではないですから。

セオドア・レビットという著名な経営学者は、
1983年に「市場のグローバル化」という論文の中で、
このように述べました。
「世界がある強い力によって、共通の方向に急速に収束しつつある。
その結果今まで予想もつかなかった規模の標準化された
消費財の市場が地球的なスケールで出現した。
こうした地球的な規模の同質化に適応できない企業は淘汰される。」


■洗濯機から見る標準化

具体的には、ヨーロッパで1960年代には主流になっていた
ドラム式の洗濯機を例にとって、同じヨーロッパでありながら
イタリア・ドイツ・英国などで顧客の好みに応じて
商品開発をしていた家電企業は、
大きな誤りをおかしたことを彼は指摘しています。
標準化の機会をあえて逃しているということです。
私は、その論文をある時期に読んで以来、
洗濯機は世界で統一した型になるのかを
ずっと関心を持ってきました。
たとえば海外に出張する度に、
デパートの家電売り場に出かけては、
その土地の洗濯機の形を見てきました。

確かに、上から洗濯物を出し入れし、洗濯と脱水の
二槽式かつ攪拌式が主流だった日本の洗濯機にも、
かつてコインランドリーでしか見なかったような
前開きのドラム式が導入されてきています。
ただ日本を含めてアジア各地の洗濯機が、
すべて前開きのドラム式に統一されているかというと、
必ずしもそうではありません。
日本でも大きく脱水機能付きの二槽式や全自動は上開き、
乾燥機能付きは前開きと混在しています。
洗濯機でいえば、意外なほどに
標準化は進んでいないといえます。


■標準化と適応化

やはり、日本では上から覗き込むようなタイプの方が
使いやすいとか、使用する場所を含めた生活の習慣とか、
いろいろなことが影響しているのだと思います。
このような考え方を製品の標準化と適応化
という考え方から考えてみます。
標準化とは、レビットが主張したように世界の市場を
対象としながら、ある程度の品質と機能を持ったモデルを
より低いコストで生産しながら供給するという考え方です。
メーカーにすれば、自社の統一されたブランドのもとで、
製品を開発し、大量に生産するという規模の経済性と
効率性を考えても、非常に利点は大きいといえます。

それに対して、適応化とは国や特定の市場を対象に、
より嗜好や習慣にあった製品を生産して
供給するという考え方です。
面白い例としては、カップヌードルがあります。
ボーダレスというタイトルで、ずっとコマーシャルが
展開されてきていましたが、あのカップヌードルであっても、
メキシコではサルサ風味のものを出し、インドではカレー味など、
世界各地で様々なフレーバーが存在しています。

また、もう30年近く前になりますが、
ご紹介した論文を読んだころに、
中東向けのフルーツ・ジュースとTVが、
私たちが購入するものとは大きく違っていることを知りました。
中東向けのネクターと呼ばれるフルーツ・ジュースは、
最近の甘さ控えめや無糖を好む人にはとても甘すぎるかと思いますが、
中東の巡礼の時期に輸出するネクターは、
甘ったるいと思えるより糖度の高いものでした。
まさに巡礼の疲れを癒す甘さなのでしょう。
またそのころには、日本のTVのデザインは、
かつての木目家具調から無機質な工業デザインに
変わっていましたが、中東向けのTVは立派な家具であり、
扉があって、鍵が占められるようになっていました。
おそらく自宅において、TVの持つ意味の違いなのでしょう。
先ほどのハンバーガーと同様に、
まさに現地市場に向けた適応化の例です。


■標準化と適応化のバランス

世界経済には国境がないように
ボーダーレス・エコノミーと言われ、グローバル化が
進展していることは明らかな事実ですが、
セオドア・レビットが述べたように、世界は同質化し、
巨大な標準化された市場が出現しているのでしょうか。
それぞれの国や地域を考えるとき、さまざまな分野で
グローバル・スタンダードの導入がある一方で、
生活の習慣や文化に根差した考え方は色濃く残っており、
シンプルに世界で共通な商品を共有すること
にはなっていないように思えます。
先程、標準化と適応化という話をしましたが、
その二つの内の二者択一ではなく、
このバランスを考えながら展開していく
ということが必要なのだと思います。
明日もこの話題を続けていきたいと思います。

分野: 星野裕志教授 |スピーカー:

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