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企業の多国籍化②(国際経営・国際ロジスティクス/星野 裕志)

09/06/10

■企業の国際経営の形態

昨日は、国内だけで事業を行ってきていた企業が、
製品の輸出を開始し、やがては海外に直接投資して
子会社を設立して販売や生産を行う多国籍企業化への
プロセスについて説明をいたしました。

企業の国際経営の形態とは、輸出、直接投資の他にも、
技術の供与や企業提携などの方法も考えられます。
技術供与とは、自社の開発した技術やライセンスを
海外の企業に提供して、その見返りとして
ロイヤリティの支払いを受けるという方法です。
企業にしてみれば、あえて新たな市場に進出する
リスクをおかすことなく、確実に収入を得ることができます。
リスクとリターンの判断で、直接投資か
技術供与の判断がされることになります。

次に提携とは、例えばフランチャイズ契約を結ぶことで、
相手の企業がブランドを使ってビジネスを展開することや、
パートナーとして自社に代わって代行することも考えられます。
もともとアメリカのコンビニエンス・ストアのチェーンであった
セブンイレブンが、最初の日本市場に入ってきた時は、
そのような形態でした。
日本にある世界的なホテルのチェーンの多くも、
実は直接投資ではなく、名称だけ、
あるいはマネジメント契約だけというような
入り方をしている提携関係といえます。


■国際経営を考えるうえでの折衷理論

このように国際経営を志向する企業にとっては、
輸出、技術供与、提携、直接投資などの
いくつかの選択肢があることになります。
自社の戦略としてどのように判断するべきであるかについて、
経営学者のジョン・ダニング(John H, Dunning)は、
1970年代に、「折衷理論」という考え方で解き明かそうとしました。
何が折衷なのかというと、企業の意思決定には、
所有(owner)、立地(location)、内部化(internalization)の
優位性の源泉となる3つの要素の所在を確認することで、
判断するという考え方です。

第一に、所有に関わる特殊優位¬=Ownership Advantage
と呼ばれるものは、ある企業に固有の技術やマネジメントに
関する能力やブランド、あるいは様々な経営資源へのアクセス
といった能力をもつことです。
そもそも他社よりも優れた能力をもたないことには、
どのような形でも海外市場への進出は困難です。

第二に、立地特殊的優位=Location Advantageとは、
企業の立地に関わる利点です。
たとえば昨日も説明したように、
本国からの輸出よりも現地で生産することで、
様々なコストやリスクを低減できることや、
相手国に立地することで原材料などの資源へのアクセスや
流通チャンネルが手に入りやすいなどの利点が
どのような意味をもつかということになります。

第三は、内部化優位=Internalization Incentiveは、
直接投資で子会社を設立することと
現地の企業との契約とを比較した場合に、
コストやリスクを検討した結果、
子会社を持つことの利点になります。
例えば、適切なパートナーが現地に見つからなかったり、
自社のブランド・イメージや戦略に十分な配慮が
されなかったり、自社製品に関わる情報が漏れたり、
またこのような提携関係を締結し維持するコストを考えるとき、
外部の企業をパートナーとするよりは、
子会社の設立が適切と判断されることになります。


■所有・立地・内部化

J.ダニングは、このように所有特殊優位、
立地特殊的優位、内部化優位の3つの要素をもって
検討した時に、それらの3つがすべて企業に
備わっている場合には、直接投資をする、
現地に子会社を作って、そこで生産販売する
という判断がなされるとしています。
もし、あえて現地で生産をする利点がない、
つまり立地特殊的優位性がなければ、
自国からの製品の輸出が最適な形態といえます。
例えば、半導体など、輸出をするにしても、
輸送のコストが低く、航空便で運ぶ限り
時間もかからないものであるならば、
あえて現地に工場を作らなくても、
自国から輸出すればいいのです。

最後に、あえて自社の子会社を現地に設立して
事業を展開する内部化優位が認められなければ、
現地の企業に技術を供与することで、
ロイヤリティを受ける選択が考えられます。
たとえば市場に成長性があまりない場合に、
自社に直接的に進出するだけの能力がない場合、
直接投資のリスクが高いと判断される場合、
自社で乗り出すよりは、技術を供与して
安定的な収入を得るということが考えられます。
このように、3つの折衷案が、
自社の戦略を選択する際の一つの目安になるのです。

今日は企業の多国籍化に関する
代表的な理論の一つとして、
ダニングの「折衷理論」、あるいは、
3つの要素の頭文字をとった「OLIパラダイム」を説明しました。
新聞の報道で見られる多くの企業の
海外進出のケースを考えると、所有・立地・内部化の要素を
考慮した意思決定といえるかと思います。

分野: 星野裕志教授 |スピーカー:

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