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永池克明教授一覧

内需型日本企業による海外企業買収攻勢(国際企業戦略論/永池 克明)

09/04/20

現在、日本経済は世界規模の金融危機と
それに続く欧米経済の低迷の影響を受け、景気が悪化しています。
特に自動車・電機・機械などの輸出型産業は
打撃が大きく、厳しい緊縮策を打ち出しています。
しかし、こうした中で攻めの経営姿勢を見せている業種もあります。
上記のような輸出産業ではなく、
これまで長年ずっと国内市場を中心にビジネスを展開してきた、
いわゆる内需型産業に属する日本企業が、
最近海外企業を積極的に買収し始めたという動きです。

■その背景

内需型企業は長年、国内市場で
安定的な売り上げ・利益を享受してきました。
また、内需型産業は海外市場には自社よりも
強力な外国企業が多く存在し、海外市場への進出には
どちらかといえば消極的でした。

しかし、安定的な国内市場も経済の成熟化に伴って
伸びが鈍化ないし減少傾向にあります。
このため、企業の成長や新たなビジネスチャンスを得るためには、
海外市場に注目せざるを得なくなったわけです。

昨年後半以降の米国景気、欧州景気の後退と
世界的不況の本格化に伴い、円が各国通貨に比べて割高になり、
企業買収には絶好のチャンスとなった。
こうした背景から、日本企業による海外企業買収が活発化しています。
今回は製紙、ビール、医薬品等の事例を紹介します。

■主な事例

まずはじめは製紙業界です。
これは今年の2月に、国内2位の日本製紙グループ本社が
オーストラリアの製紙3位のオーストラリアン・ペーパー(AP)
の買収を発表しました。買収額は、360億円で
日本の製紙会社の海外M&Aとしては、
過去最大規模と言われています。
日本国内の紙需要が頭打ち(2009年の内需予想は前年比8%減)となる中、
円高を生かして海外に本格進出する戦略です。
日本製紙は2015年までに海外売上高比率を
現在の1割から3割に高めて「世界トップ5」の一角を目指す目標を掲げています。
これにより世界での順位は9位から8位に高まり、
国内首位の王子製紙を追う体制を整えたことになります。
今後はAP社の販路を活用して輸出を拡大、
原料調達でも規模の利益によるコストダウンを見込んでいます。
AP社の規模そのものは、日本製紙よりもそんなに大きくありませんし、
また、オーストラリアの国内市場もそんなに大きくないわけです。
ただ、情報関連だとか、情報・OA関連の用途の紙などのセグメントでみると、
オーストラリアのマーケットでは相当伸びています。
AP社を買収することによって、オーストラリア国内での
販売のシェアを上げていくということと、
もう1つは、紙パルプなどを調達していくということによっての
販路と同時に調達先としてのオーストラリアということも
視野に入れているということです。

次に皆さんになじみの深いビール業界を見ていきます。
ビール業界でも、続々と日本企業が海外の企業を買収し始めています。
1月にアサヒビールが、韓国第2位のOBビールを買収しました。
そして、中国の青島にあります青島ビールへの出資を発表しました。
この動きは将来的な買収を意図しているわけです。
さらに、イギリス系のキャドバリーのオーストラリアの
飲料部門を買収しました。
一方、アサヒビールのライバルのキリンホールディングは、
フィリピン最大手のサンミゲルビールを買収することを発表しました。
サントリーも昨年10月に、ニュージーランドの乳業会社フルコアを
買収したというニュースが飛び込んできました。
キリンとアサヒは、国内市場で熾烈な争いをしています。
ただ、国内ではビール市場すでに頭打ちになっているため、
世界にビジネスチャンスを求めるということが、
最大の戦略的な意思ということになります。

そして、医薬品業界も内需型日本企業が多く存在します。
薬品業界は厚生省の規制などの影響もあり、
これまでは国内中心でやってきました。
ところが、最近、ここにきて海外企業買収を積極的に開始し、
風向きが変わってきています。
昨年6月に、第一三共がインドのランバクシー・ラボラトリーズという会社を買収しました。
また武田薬品は、アメリカの医薬品会社である、
ミレニアム・ファーマーシューティカルズ社を買収しました。
さらに、エーザイも同様にアメリカの医薬品会社MGIファーマを買収し、
海外の展開を本格化しています。

では何故これらの業界が合併・買収に乗り出したのか。
ビール業界を例にとってみましょう。
世界の最大のビール会社はベルギーのアンハイザーです。
アンハイザーはビールに特化しており、大陸をまたぐM&Aを、
すでに何度も繰り返してきて、そして大きくなってきました。
それによって、ビールの原材料調達だとか、
そういったものを世界的な規模で展開することによって、
スケールメリットを出しやすい体質を築いてきました。
ちなみに、アンハイザーのビールの生産量は、
日本のトップの生産量のアサヒの15倍以上であり、
いかに海外にグローバルに展開しているかがわかります。
そういうことで、日本メーカーも飽和状態の国内市場にいたのでは、
これからあまり大きな成長の期待が持てないわけですから、
世界のマーケットに軸足を移して、
成長機会を追求していくということが必要だと判断したと思われます。
現在の海外比率を見ると、キリンホールディングスが28%、
サントリーが12%です。
ところが、アサヒはわずか3%と少ないです。
サントリーには外資が絡んでいることも一因であると思われますが、
アサヒの海外での成長の余地は大きいわけです。

■今後の展望
海外企業買収(M&A)は国際戦略提携とは違って
海外の企業を買収した後が問題であり、
その会社の経営をうまくやっていけるかどうかがカギになります。
レノボや上海汽車の例にもあるように、
経営能力如何が将来を左右することになります。
日本の製紙業界では旧大昭和製紙(現日本製紙グループ)は
バブル期に1000億円規模の北米投資に失敗して以降、
大型案件が途絶え、90年代以降は数億円規模の出資や合弁が中心で、
同じ時期に大型M&Aで規模を拡大した
海外製紙大手との格差が広がった歴史があります。
海外経営経験の浅い内需型産業の日本企業の
アキレス腱はここにありますが、今後のビジネスチャンスの獲得と
企業の成長を考えれば、避けては通れない試練です。

分野: 永池克明教授 |スピーカー:

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