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国際会計基準と時価会計(財務戦略/村藤 功)

09/04/17

■国際会計基準
以前、日本の会計基準と国際会計基準、それにアメリカの基準では、
違いがあるということを、お話させていただきました。
今回もその国際会計基準をめぐるお話です。

まず、最初に問題になっていたのが、欧州委員会が日本の会計基準は、
国際会計基準と大体同じである、と言ってくれないと困るということでした。
というのは、今後、日本の会計基準が国際会計基準と同等でない、
ということになると、日本企業がユーロ市場で資金調達が、
できなくなる可能性があったためです。
日本の大企業は、ロンドンのユーロ・マーケットで社債を発行して、
大変な額の資金調達をしています。
ですから、日本の会計基準が国際会計基準と同等であると認定されなければ、
皆、資金調達が出来ずに経営が立ち行かなくなることを恐れていました。
しかし、昨年末に欧州委員会が、日本の会計基準もアメリカの会計基準も、
国際会計基準にかなり近くなったので、国際会計基準と同等だ、
と認めてもよいということを言ってくれました。
そこで、ユーロ市場で資金調達する際は、日本基準とアメリカ基準でも、
国際会計基準と同等であると認めることになりました。
そのため、皆、とりあえず良かったと、昨年末にホッと胸をなでおろしました。

また、この4月から、日本の国内でも、国際会計基準を使って、
有価証券報告書を提出してもかまわないということになりました。
日本としては、まだ独自の会計基準を諦めたという話ではないのですが、
国際会計基準で作った有価証券報告書も、日本で認めることになりました。

これまでは、国際会計基準の採用に対して、日本とアメリカが、
最も反対していました。
しかし、アメリカはアメリカの会計基準を諦めてしまいました。
既に、100か国以上が国際会計基準を使うようになってしまったため、
アメリカの会計基準は将来放棄して、国際会計基準に変える、
ということを発表したのです。
日本としてはショックな出来事でしたが、とりあえず、今年の4月からは、
国際会計基準も認めるが、日本の会計基準と並存でいくことにしました。
2012年まで、この先あと3年ほど考えさせてくださいということです。
あと3年ほど経ったところで、このまま並列でいくのか、
それとも日本基準を諦めて、世界の国際会計基準を採用して、
それにまとめるのか、これから考えるということです。


■包括利益
これまで日本の会計の財務諸表には、貸借対照表や、
損益計算書が存在していました。
しかし国際会計基準では損益計算書がなくなってしまいます。
これは日本の企業としては、ショックな話です。
損益計算書というのは、この一年間にどの位稼いだかという、
その本業の結果を見るものです。
損益計算書では最上段の売上から始まり、最後に、
当期純利益というものにたどり着きます。
ところが、包括利益を重視する国際会計基準になると、
当期純利益では終わらずに、その後に、「その他の包括利益」
というものを含む包括利益計算書というものに変更されます。

包括利益計算書では、純利益だけでなく、資産や負債などの時価が、
この1年の間でどれほど変わったのか、ということまで、
示すことになっています。
為替換算差額や投資有価証券の含み損益等は、
これまで損益計算書には反映されず、自己資本の変動としてだけ、
見られていましたが、今後は1年間の変動を表わす、
包括利益計算書の中にそれが入ってくることになります。
すると、本業で儲かっていても、保有している資産の価値が失われてしまうと、
それだけで包括利益が赤字ということになりかねません。
多くの日本企業は、本業での損失分に対して、
土地や株の含み益を売却・実現して、とりあえずの辻褄を合わせる、
という方法をこれまでとっていたので、困ったことになったと感じています。

株主にとっては、包括利益の方が分かりやすいのです。
株主は企業の自己資本を持っているわけですから、
一年間の本業の損益だけでなく、資産や負債の時価も変わったと、
見ることができた方が嬉しいわけです。
そういう意味で、今までよりも企業の状況が明らかになるため、
包括利益計算書でいいと考えられます。
一方、有価証券報告書を作る側としては、これまで経営として、
本業だけを行っていればいいと思っていました。
しかし、包括利益計算書に移行することで、資産・負債の時価の変動や、
為替市場、株式市場の影響など、持っている資産の価値が、
どんどん変動することにまで注意を払わなくてはならなくなってしまいました。
そのため、一体どうやって経営をすればよいのか、ということ自体が、
分からなくなってきた状況になってしまっています。


■時価会計適用の一部凍結
損益計算書を包括利益計算書へと変更し、
企業の資産負債の時価の変動などを、全て透明な状況になるように開示しよう、
ということを議論していた矢先、世界の金融機関が、
未曾有の危機に陥ってしまいました。
このような状況で企業の本当の状態を全て開示したら、
破綻する銀行や事業会社が続出するのではという懸念が広がりました。
そこで、とりあえず本当の状況を隠そうという話が、アメリカ、ヨーロッパ、日本の、
政府の間で始まりました。

そうは言っても、株式市場の株式や国債など、明らかな値段が付いているものを、
時価ではなく取得原価で、帳簿上に記載していくことになった訳ではありません。
流石に恥ずかしかったからです。
今回、保有する金融商品を時価で評価せずに、その金融商品による巨額の損を、
隠そうという話になったのは、世界の金融危機で、マーケットが崩壊したためです。
マーケットが崩壊し、デリバティブや、証券化商品などの中に、
市場価格といえるような値段が付かないものも出てきたのです。
仮に値段がついていても、金融機関によって値段が高かったり低かったりと、
一定ではないこともよくあります。
このようなものは、もう時価で評価できないため、買った時の値段で、
とりあえず計上することを許そうと、欧米政府が言い始めたのです。
一方で日本の金融庁は、そのような操作は都合がよすぎるのでは、
と、はじめは言っていました。
しかし、欧米だけが隠して、日本は隠さないというのは具合が悪いわけです。
日本の事業会社も、欧米がそのような措置をとるのなら、
同じようにさせて下さいという意見が相次ぎ、とりあえず、皆で隠そう、
つまり金融商品を時価評価する時価会計の適用を一部凍結しよう、
ということになりました。
これは勿論一時的な措置です。


■コンバージョン
日本が会計基準を国際会計基準に変えていくということを、
コンバージョンと呼びます。
また国際会計基準そのものを使うことをアドプションと呼びます。
一方でコンバージョンは、日本の会計基準を使い続けるが、
日本の会計基準を国際会計基準に漸進的に合わせていくという考え方です。
これまで日本ではアメリカの上場会社を除いて日本の会計基準を、
使わなければならなかったわけですが、この4月から、
国際会計基準を使っても構わなくなりました。
そこで個別の会計の違いを、段々と合わせていく作業を少しずつ進めています。

国際会計基準と日本の会計基準の違いですが、例えば、日本の総合商社では、
これまで、10~15兆円という大変な売上を上げていました。
これは商品の販売額を売上高として全て計上するという考え方から来ていました。
しかし国際会計基準になると、売買差益、商社が商品を買って売る時の、
その差額だけを売上として計上するということになります。
そのため総合商社の売上は、格段に減少してしまうことになってしまいます。

それから日本では、製品や商品を出荷した時点で、売上に計上していましたが、
今後はそれらが取引先に到着した時点や、到着後に顧客が検査を終了して、
検収した時点を売上計上のタイミングにするという基準に変える、
という話も出てきています。

費用でも、色々な変更点があります。
日本では、変化する税法上の耐用年数を考慮して、
会計上の減価償却年数を決めるということをこれまで行ってきました。
しかし国際会計基準では、税法と会計は別なので、税法が変わったからといって、
会計上の減価償却年数を変えることは許さないということになっています。
さらに、日本では、本業に関わるような損であっても、リストラ損などは、
一回かぎり発生する特別な費用であって経常的でないので、
特別損失だと主張することがよくありました。
しかしこれからは国際会計基準の場合、経常的な損失ならば、
営業費用ということになるかもしれません。
このような変更により経常利益の金額が随分と変わってくる可能性があります。

分野: 村藤功教授 |スピーカー:

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