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技術標準と企業戦略(中国ビジネスとイノベーション/朱穎)

09/02/23

■技術標準とは
本日は技術標準と企業戦略というお話をさせていただきます。
基本的に、ある産業において、ある技術がスタンダード、
あるいはデファクトスタンダードとして定着していくということは、
様々な産業の事例を見て分かると思います。
今回は、特にハイテク産業において、
技術標準が非常に大切であるということを、
いくつかの事例からご紹介したいと思います。

まず、なぜハイテク産業において、技術標準が大事なのかということです。
技術標準がもたらす効果の一つとして、
ある技術が標準として定着してしまいますと、
別の新しい技術が登場しても、なかなかシフトしていかない、
ということが、よく起こります。
その原因はケースバイケースですが、前回お話しした自動車の例で言えば、
自動車産業のスタンダードとして、ガソリン燃料が、
スタンダードとして定着してしまうと、
現在のように電気や水素といった新エネルギーへのシフトが、
スムーズにいかないということがあります。
シフトのためには、当然、新エネルギーが利用できる、
インフラ整備の問題もありますし、ドライバーの運転の仕方の問題など、
様々に存在します。


■QWERTY配列
今回、ご紹介したいのは、キーボードの配列の例です。
おそらく、皆さんご自宅のキーボードを見ていただくと、
その配列は、クワーティ(QWERTY)と呼ばれる形になっているはずです。
QWERTYという、アルファベット順に並べられているわけです。
どうして、このような配列になっているのかという、
素朴な疑問を皆さんお持ちと思います。
これはかなり昔の話ですが、1880年代に、
当時のスタンダードとして定着してしまったことが原因なのです。
ここで面白いことは、このQWERTYを開発した人は、
おそらくタイピングスピードを早くするわけではなく、
何とか遅らせようとしてこのデザインを設計したことです。
一般的に早く打てた方がいいとお考えと思います。
しかし、当時の機械的な要素によって、
例えば早く打ってしまいますと、タイピストの指が傷付けられてしまう、
などの事故があったようです。
ですから、何とかスムーズに、しかし一般的なスピードで打つように、
安全性を第一として考えて、このデザインを設計したわけです。
つまりこれは、決して効率的なデザインではないのです。
そこで1930年代になりまして、またアメリカの別の発明家が、
もっと効率的な配置デザインを発明しました。
しかし、今私たちが使っているものと同じく、
その当時でもQWERTYという、1つの標準が定着してしまっていました。
タイピストを新たに訓練するためには費用がかかります。
しかし、当時の30年代に開発された発明家の話によりますと、
新しい形式でタイプするために再教育するためのコストは、
実は10日間ほどで解消できたそうです。
やはり、効率的な配列になっていますので、
当然、生産性が上がったわけです。
ですから、当初、初期投資はかかるかもしれないけれども、
10日間で解消できるということでした。
しかしその普及に関してはコストの問題ではなく、
標準という問題が発生しました。
QWERTYというのは当時の技術標準になっていたので、
その標準のみならず、そのハード機器との互換性が存在していました。
さらにタイピストとして、それまで使っている技術に既に慣れてしまい、
新たに別な技術の方にシフトしていくというのは、
なかなかスムーズにいかない、抵抗感があったわけです。
ですから、決して効率的ではないけれども、
やはり慣れが生じてしまっていて、更に周辺機器との互換性もあって、
一つの基準として、未だに存続しているということが、
標準化の1つの事例です。


■標準化の決定要因
ハイテク産業で、標準化が起こる原因は、
4つあるのではないかと思います。
1つ目は、話し合いです。
例えば、業界リーダーが出てきまして、
このような標準にしましょうよ、と持ちかける動きがあります。
次が、政府や公的機関が標準を決定することです。
例えば通信分野に関して、色々な国の中でそれが見られます。
3つ目が、技術の従来の物理的な特質として、
よく言われている、ネットワーク外部性です。
要は雪だるまのように、ネットワーク効果によって、
ある技術が広く浸透して標準として定着していく、ということです。
最後は、企業と更に個人、企業家が、戦略的な意図を持って、
積極的に周辺企業に技術を採用すうに働きかけていくという行動です。
これが一番重要ではないかな、と思います。
例として申し上げますと、なぜマイクロソフトが、
少なくともOSのスタンダードとして定着しているのか、ということです。
マイクロソフト以外にもOSでは、アップルもあるわけです。
しかし、これは、どちらのOSがいいのかという単純な話ではなく、
その周辺にあるソフトウェアとバンドリング、全体のシステムとして、
MSの方が顧客と更にそのサプライヤーに支持されている結果と、
解釈できるのではないかと思います。

その他の事例では、昔VHSとベータ方式がありました。
最終的には、VHSになりましたけれども、VHSの方が、
テープレコーダーが大きいですし、コストがかかります。
ベータは、市場に先行者として、ファーストムーバーとして、
出されたわけですが、結果的には、
VHSの方がスタンダードになってしまいました。
これは技術という1つの尺度でそうなったわけではありません。
例えばVHSを作っている企業は、非常に積極的に、
周りのソフトウェアや、映画会社にアプローチしていたのです。
要するに、自分のネットワークを一生懸命拡大していったということです。
ベータ陣営のソニーは、ネットワーク構築に消極的だったので、
非常にいいものでも、結果的にスタンダードがとれなかったというわけです。
発売して以降の企業の動き方、更には、
消費者の選択が明暗を分けたわけですね。

分野: 朱穎准教授 |スピーカー:

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