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村藤功教授一覧

社会保障の将来(財務戦略/村藤 功)

09/02/27

■社会保障改革とその財源
今の経済状況を見ていると、日本の将来、特に社会保障の面で、
心配があります。
心配ですが、現実には社会保障の費用がどんどん増えています。
心配だからどんどんお金を出してくださいと言うと、
更に負担が大きくなっていくので、それもまた心配です。

福田総理が辞任される前に、舛添大臣が5つの安心プランというものを発表しました。
発表直後に辞めてしまったので、その後一体どうなったのかは、よく分かりません。
しかし、これはそもそも実現するための財源が足りません。
安心プランのための財源をどうするのかということで、
消費税を使おうという話がよく出てきます。

年金の話でも、基礎年金という、最低の生活を保障する、
年金部分の政府負担を3分の1から2分の1に引き上げることにしました。
それに必要なお金を、まず特別会計の埋蔵金から持ってこようとしています。
そして埋蔵金から持って来れなくなったら、
消費税でまかなおうという話があるわけです。

ところが、先日も申し上げた通り、特別会計の埋蔵金は、
実は存在しない可能性があります。
埋蔵金とは特別会計の準備金として過剰に積み立てられている不要部分です。
そもそも、外為会計の資産価値は、ドルと円とのレートによって、
上がったり下がったりするので、額が変動します。
円高の今は大きな損失を被ったはずで、
過去の遺産として存在した埋蔵金は消えているはずです。
消費税の値上げ自体も、本当に必要なのかよく分かりません。
なぜかというと、中央政府の連結バランスシートの、
資産や負債を見てみると、資産だけで800兆円以上あります。
一方で、借り入れの有利子負債も、一千兆円位あります。
まずは、この800兆円の資産を何百兆円か売れば、
負債が圧縮できるはずです。
消費税を上げる前に、まず資産を売ったり、
民営化したりしたらどうだという話があるわけです。
資産のなかで、外為資産を除いても百兆円ほどは、
売れる資産があります。
資産を売るだけでなく、人をつけた公営事業や、
公的金融機関の民営化を行えば、何百兆円かはお金が入ってくるはずです。
ですから消費税を上げる前に、そういった議論をすべきだと思います。

一方で、かんぽの宿のような、国有資産の大安売りをされても困る、
とお考えの方がいるかも知れません。
しかし、かんぽの宿は個別に見てみると、あり得ない値段で売却していますが、
全体としては数十億円の赤字となっており、
本当に不正なのかどうかは、怪しいところがあります。
投入した価値は売却前にとっくに失われていたわけで、
売却しないと、数十億円の赤字がずっと続くことになりますからね。
事業としてみれば値段が付くだけいいのでは、という考え方もあります。


■年金制度の積立主義
今回は、社会福祉制度がテーマですので、
そこで一番問題になるのが年金制度の話です。
日本の年金制度は、このままでは行き詰ってしまうだろうというのは、
皆さんお分かりと思います。
今までの年金制度は賦課主義といって、税金と同様に、
お金を取り立てて(賦課して)、同じ世代の現役が、
同じ世代の高齢者を支えてあげるという制度です。

しかし少子高齢化で、現役が少なくなり、高齢者が多くなるということは、
同じ世代とはいっても現在より少ない人たちが、
現在より多くの人たちを支えなければいけないわけです。
それが無理で、破綻しそうだということは段々と見えてきました。
そこで自分で自分の年金分を貯める制度に移行するしかないだろう、
ということで、これまでの賦課主義から積立主義へと、
変化していくいという流れがあります。

ところが、賦課主義から積立主義に移るのはいいとして、
積立主義というのは、自分で自分の将来の分を貯めるわけです。
しかし既に高齢者になった人たちは、先輩たちのために、
お金を出してきたので、自分は積立てたのだから、
今は下の誰かが出してくれるだろうと、
過去に積立てた分のお金を払ってもらうつもりでいるわけです。
我々、若手が自分のお金を積立て始め、先輩の面倒は見なくていい、
ということになると、先輩たちが怒ってしまいます。
そうすると、過去に積立てており、もらえるつもりでいる人の、
過去債務をどうするのかということが問題となります。
年金の引き当て不足は500兆円を超えるといわれ、
基礎年金を消費税でファイナンスするということにしたとしても、
ニ百数十兆円は過去債務を払わなければなりません。
そうすると、ニ百数十兆円の借り入れの返済を何年位でやるのか、
ということが問題となり、それには大体60年から80年位かかるのではないかと、
私の属している経済同友会では試算しています。
このように過去債務の償却負担の問題があるため、
簡単には賦課主義から積立主義に移行できない状況にあります。

年金を確定拠出制に変更する企業は、段々増えてきてはいるのですが、
全体から見ればほんの僅かな金額です。
そもそも積立ての損金扱いが僅かな金額しか許されていませんので、
もう少し拡充しないと制度的に無理だと思います。


■国民皆年金制度と日本年金機構
日本は、国民皆年金制度に既になっているといわれています。
なっているということは、皆でお金を払わなければならないはずですが、
国民年金は4割近くが未納です。
2007年の国民年金の納付率は63.9%で、4割近くが払っていない計算です。
4割も払っていないということは、国民皆年金とは呼べないという話です。
そんな状況になっているのは、一体誰のせいなのかということで、
社会保険庁が悪いのではと取り沙汰されています。
最近もまた、厚生年金の標準報酬月額を改ざんしたなどの、
ニュースが報じられたりしています。

このような不祥事を起こした社会保険庁は解体することになっています。
昨年の10月に、全国健康保険協会としてまず健康保険を分離し、
来年に非公務員型の日本年金機構というものを作る予定です。
ところが、社会保険庁で悪いことをした処分歴がある人員は、
一体どうするのかということが問題になっています。
彼らを日本年金機構で採用するのは許さないと、政治家が怒りました。
ところが、クビにするわけにはいかず、日本年金機構にも移れない人は、
一体どこに行くのかということで、厚生労働省は、
厚生労働省に彼らを移せばいいのでは、と言い始めました。
日本年金機構に行くより、厚生労働省に行った方がいいのでは、
という話で、処分を受けた方がラッキーだった、
というよく分からない話になっています。

そんな中で、誰が日本年金機構のトップやるのかということで、
大変にもめていました。しかし、やっと紀陸 孝(きりく たかし)氏、
という経団連の専務理事をされていた方が就任することになりました。
この人を中心に、どのような人材を年金機構に移していくのか、
ということを決めることになっています。


■日本の医療
年金だけでなく医療の話も、困ったことになっています。
後期高齢者制度を導入しましたが、あまり機能していません。
これは後期高齢者の批判を受けたりしたことが原因です。
それから、後期高齢者制度を導入する時に、
前期高齢者にもお金を回してください、ということで、
64歳から74歳までの前期高齢者があまりいない健康保険組合から、
多く加入する国民健康保険に支援金を出す、
財政調整の仕組みを導入しました。
この結果、健康保険組合は、皆、赤字になってしまいました。
そこで大企業としては健保組合を解散し、
これまでは中小企業が主だった政府管掌健保に移行する、
というような動きを始めています。
この事態に厚生労働省は大慌てという状況です。


■日本の介護問題
最後に介護ですが、これもあまり機能していません。
厚生労働省としては、民間に少し介護をやらせてみよう、
ということで始めたのですが、段々と介護報酬を下げてきたために、
介護事業に人が集まらなくなりました。
介護の仕事はかなり大変です。
大変なのに、お金が全然もらえないので、
有効求人倍率が全産業平均では、1.02なのに介護事業は1.74倍です。
男性は結婚すると、奥さん子供を養っていけないために、
介護の仕事から寿退社しなければならないという現状にもなっているようです。
このように誰も来てくれずに困っていますので、
とりあえず、報酬水準を改定して、今年の春から3%引き上げる予定で、
これで少しは人材が増えてくれないだろうか、ということを願っています。

分野: 村藤功教授 |スピーカー:

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