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村藤功教授一覧

インフレ懸念(財務戦略/村藤功)

08/05/23

■コストプッシュ・インフレとスタグフレーション
最近、日本でも物価が上がり、
インフレが懸念されています。
このインフレですが、種類は2つあり、
景気がいいときに個人消費が拡大することによって
物が不足して生じる「デマンド・プル・インフレ(良いインフレ)」と、
景気は良くないのに原材料の調達コストの上昇によって
物価が上がる「コスト・プッシュ・インフレ(悪いインフレ)」とがあります。
今、日本で起こっているインフレは、
後者の「コスト・プッシュ・インフレ」で景気は良くないのに
原材料価格が上がることで生じています。
例えば、石油、石炭、鉄鉱石の値段、
それから小麦やとうもろこしの値段が上がり
その分が消費者向けの販売価格に跳ね返って生じているインフレです。
どちらかといえば、嫌な形のインフレです。
いわゆる「スタグフレーション」という、
景気は良くないのにインフレによって
暮らしが一層厳しくなるということが起こり始めています。


■インフレの指標
インフレ指標には、我々消費者が
買っているところの「消費者物価指数(CPI)」と、
企業が企業に売るときの値段を示す「
企業物価指数」の2種類があります。
日本ではバブル崩壊後から、
CPIは0%に近かったのですが、
ここにきて0.8%、1%、1.2%と1%を超えた
消費者インフレになってきました。
企業物価指数は、CPIに先行して上昇・下降する
傾向があるのですが、現在この指数が、
ものすごい勢いで上昇しており、4~5%位のところまで来ています。
資源価格の高騰で原材料価格が上がってきているのです。


■石油、石炭、鉄鉱石の価格上昇
石油でいえば、まず原油がWTIの1バレル
あたり100ドルを超えて騒いでいましたが、
今では120ドルから122ドルを超えてきました。
石油だけかと思っていたら、石炭も高騰してきました。
石炭は5年前、1トン当り20ドル位だったのですが、
1年前に50ドル、今年は100ドルと、5年前に比べると
5倍になっています。日本でも石炭を使っているところは多く、
今までオーストラリアから買っていたところを、
オーストラリアよりも3倍高いアメリカからも買う
必要性が出てきて、大変な騒ぎになっています。


石炭や鉄鉱石資源を持っている企業は、
世界で3社に収斂されてきました。BHP(ビリトン)、
リオ・ティント、ヴァーレの3社が、マーケットシェアの
半分以上を押さえていて、この3社の値段交渉によって、
資源価格が高騰しています。


鉄鉱石では、今年の価格を去年より
65%上げてほしいという話になり、つい先日、
中国の鉄鋼会社が65%ではなく、85%の値上げを
のんだというニュースが流れてきました。
日本の新日鉄やJFEスチールにとっては
厳しい話です。石炭と鉄鉱石を合わせれば
3兆円位、コストが上がってしまいますので、
このままでは、新日鉄やJFEでは死活問題となります。
そのため、どうにかこれを転嫁しようと、
大手顧客である自動車会社にお願いしたりしていますが、
中小企業顧客には、無理矢理値段を上げたりしていますので
今、中小企業は大変なことになっていると思いますよ。


■値下げしているもの
一方で値段の下がっているものもあります。
例えば、ノートパソコンやデジタルカメラは、
3割位価格が下がっており、家電業界は大変だと思いますよ。


■原料価格高騰の影響
今、何より大変なのは原料高です。
石油、石炭、鉄鉱石、これらの価格が
円高のメリットと比べものにならない程、高騰しています。
円高メリットが10~20%であるとすれば、
これらの資源価格は、50%や80%、
さらには2倍という勢いで、資源が上がってきています。
そうなると資源を輸入している企業は、
その価格差をとても吸収できず、
その分をお客さんに負担してもらうよう
値段を高くする交渉をすることになります。
このとき、大手企業は仕入れ時に嫌だと言ったり、
一部値上げを受け入れても自分の顧客に
先送りしたりすることが可能ですが、
中小企業は仕入れ時には価格高騰を
受け入れざるを得ないのに自分の顧客に対する
値上げをできず、もともと少ない利益が
吹っ飛んで大変なことになるというわけです。


電力業界やガス業界は、
燃料が上がっているわけですから、
電気料金やガス料金を上げたいわけです。
実際、電力業界やガス業界では、
燃料費調整制度という都合の良い制度を
10年前位に導入しています。
これは、3ヶ月毎に上がった燃料分だけ
電力やガスの料金を値上げ出来るというものです。
消費者の皆さんは余り気が付いていないかもしれませんが、
電力料金やガス料金は3ヵ月毎に上がっています。
現在も燃料の価格が上昇していますので、
これからどうなるのか心配です。


■今後の展望
現在の資源インフレは、
日本は打つ手がほとんどない状況です。
資源を持っている企業が3社、下手をすると
それが2社になる可能性もあるという状況で、
価格交渉をしようとしても、成長する中国が
高い値段で合意してしまえば手の打ちようがありません。
この状況は当分続きそうです。

分野: 村藤功教授 |スピーカー:

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