QTnet モーニングビジネススクール

QTnet
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QTnet モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録

永田晃也教授一覧

自動車産業について(イノベーション/永田)

08/02/25

これまでにお話してきた内容を踏まえ、
今回から3回に分けて、
個別の産業を事例として取り上げながら、
日本企業の製品開発力の源泉や、
製品開発戦略の課題について論じます。


まず今回は、
プロダクトイノベーションによって
国際競争力を構築してきたとみられる
産業を取り上げ、
その製品開発力が何に
由来しているのかを考えてみます。
次回から2回に亘っては、
逆に国際的には
競争劣位にあるとみられる
産業を取り上げ、
その戦略課題について検討してみます。


■強い国際競争力を持つ自動車産業
強い国際競争力を持つ日本の産業として
直ちに思い浮かぶのは、
自動車産業でしょう。
取り分けトヨタの成長率と
市場シェアの高さが注目されてきました。
では、何故日本の自動車メーカーは、
強い国際競争力を持っているのでしょうか。
これを自動車という製品の特性から
捉える見方があります。
以前、製品の基本的な設計思想を表す
「製品アーキテクチャ」の
概念について説明しました。
その際、東京大学の
藤本隆宏教授の学説にしたがって、
製品アーキテクチャは、
構成部品のつなぎ方(インターフェース)の
良し悪しが製品全体の性能を大きく左右する
「摺り合わせ型(インテグラル型)」と、
部品を寄せ集めれば製品を構成できる
「組合せ型」(モジュール型)に
区別されていることにも言及しました。


自動車という製品は、
典型的に「摺り合わせ型」の
アーキテクチャによるものと考えられています。
我々にとって自動車は、
日常的に使用する製品であり、
その製品価値に対して我々は一種の
審美眼を持っています。


■インテグリティの良し悪し
従って、そのような製品の市場においては、
個別の要素技術の卓越性以上に、
製品全体としてのまとまり(インテグリティ)の
良し悪しが、決定的に重要な価値として
評価されることになります。
そして、製品のまとまりの良さは、
開発プロセスの一貫性によって実現されます。


■重量級のプロダクトマネジャー
開発プロセスの一貫性は、
これも以前言及した点ですが、
強い権限と責任を有する
「重量級のプロダクトマネジャー」の
存在によって可能になるということが
指摘されてきました。
自動車の新製品開発プロジェクトは、
様々な部門のメンバーが関与する
機能横断的(クロスファンクショナル)な
チームによって担われます。
それらメンバーの持っている知識を、
新製品開発に向けてまとめ上げていく上では、
強いリーダーシップが
重要な役割を果たすことになります。
例えばトヨタの場合、そのような
重量級プロダクトマネジャーとして、
「チーフエンジニア」と呼ばれる
リーダーが指名されています。
これは、1991年頃までは
「主査」と呼ばれていた存在で、
カローラをはじめとする製品の開発において
重要な役割を果たしてきました。


■サプライヤーの関与
また自動車という製品は、
摺り合わせの対象となる部品が非常に多く、
相当数の部品をサプライヤーから
調達することになります。
それらの部品を新製品開発の
プロセスでまとめ上げていく際には、
サプライヤーの関与が
重要な意味を持つことになります。
トヨタの場合、
系列下にあるサプライヤーが、
開発の初期段階から
プロセスに深く関与していることが
知られています。
サプライヤーは、
単に組み立てメーカーであるトヨタから
部品のスペックを指示されて
製造を行うのではなく、
部品の詳細設計まで担っています。
このような部品調達の仕組みが、
機能部品の性能が高く、
かつまとまりの良い製品の開発に
結び付いていると言われています。


■ステージオーバーラッピング
日本の自動車メーカーの製品開発力は、
製品の機能・性能の高さや、
製品全体のインテグリティの高さばかりでなく、
欧米の自動車メーカーに比べて
開発リードタイムが短いという点にも
現れています。
このため、早いタイミングで次々と
新しいモデルが市場に投入されています。
これを可能にしているのは、
開発段階の重複
(ステージオーバーラッピング)と
呼ばれる方法です。
これは、製品企画、スタイリング、
要素技術の設計・開発、試作などの
一連の開発段階を、
逐次的に進めるのではなく、
前工程の後半と後工程の前半を
一部同時並行的に進める方法を指し、
コンカレント・エンジニアリングと
呼ばれることもあります。
この方法では、
開発プロセスが圧縮されることになり、
結果的に短いリードタイムでの
開発が可能になるのです。


■知識と情報の共有
このような同時並行的な進め方が
食い違いを生じさせないようにするためには、
ステージ間での
緊密なコミュニケーションを通じた
調整が必要になります。
それは単に高い頻度で
コミュニケーションを
行えばよいというものではなく、
各ステージの技術的な知識や情報が、
ある程度相互に共有されていることを
必要とします。
そして、この条件を与えている仕組みは、
日本企業の中で行われている
ジョブローテーションを通じた
知識の共有です。
簡略化した例を挙げれば、
設計段階の技術者と
試作段階の技術者の間で
知識が共有されていると、
両者のコミュニケーションを通じて
製造可能性(manufacturability)の高い
設計思想が、事前に
組み込まれることになり、
開発段階から製造段階への移行が
速やかに行われるのです。


このような機能横断的な
知識の共有を源泉とする製品開発力は、
自動車以外の加工組立型産業においても
見出されています。
例えば、かつて64Kから1Mまでの
半導体DRAMでは、
常に日本の企業が
最も早いタイミングで
製品の市場化に成功し、
トップシェアを占めていましたが、
そこでも知識共有を前提とする
開発段階の重複が行われ、
製造可能性を組み込んだ設計思想が
採られていたことが知られています。

分野: 永田晃也教授 |スピーカー:

トップページに戻る

  • RADIKO.JP
  • ビビックスマホ