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五十嵐伸吾准教授一覧

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中国のベンチャー事情 その3(ベンチャー企業/五十嵐)

07/12/10

前々回、北京の状況をお話したときに
中国の政府や地方政府が、
海亀(ウミガメ)ベンチャーの誘致を
積極化していることについてお話しました。
今回は場所を天津に移して、実際の海亀企業について
お話しましょう。


■海亀企業
中国の政府は、
海外の大学の研究者や海外の研究所に勤めた方、
言わばスタープレーヤー達に対し、帰国を促し、
最先端の科学技術や知見を基礎に、
新たなベンチャー企業設立を働きかかけており、
こうして出来た企業が海亀企業です。


■スタンダードソフト開発有限公司
9月に天津を訪問、海亀企業の調査を行いました。
知人を介して天津市政府に、
海亀企業を紹介して欲しいと依頼したところ、
スタンダードソフト開発有限公司という、
ソフトウェアの開発、開発受託をやっている会社を
紹介されました。
韓金光薫事長の下、薫事長とは社長のことですが、
従業員が160人くらいです。
天津の他にも研究センターを持っていて、
売上もかなり上がって来ており、
天津でも、成長企業として
有名な会社になっているそうです。


■日本帰りの海亀
韓金光さんは、日本帰りの海亀です。
最初の起業は早く、天津の大学を卒業してすぐ
市内で起業したそうです。
しかし、マネジメントということが
体系化できていない限界を感じ、
東京の大学に留学をして、
経営学を学ぶことを決心しました。
大学卒業の後、せっかくビジネス先進国である
日本に行ったのだから、
実際に、日本におけるビジネスも体験しておこうということで、
トランスコスモスという会社に入社しました。


入社後のある時、就職先の社長が、
「中国はこれから伸びてくるから会社を作りたい」という
発意が出され、意見を求められたそうです。
それで、自らの経験をもとに、
「中国でやるなら、あれはこういう風が良い。
これはこういう形…」と、
様々な意見を提案し、
その結果、「それほど、言うのなら自信があるのだろう。
ならばあなたが中国でやってほしい」と言う事になり
2003年にトランスコスモスの100%出資で、
新会社を設立することになりました。
スタンダードの前進は、
このトランスコスモスの中国子会社です。


実際に、事業開始後、思惑通り
業績は順調に伸びたのですが、
経営の意思決定に際し、
日本に確認をとりながらやっていたのですが、
スピードが違う。途方も無く遅いと感じたそうです。
そこで、2005年に、韓金光さんはその会社の全株式を
3600万円で買いとり、自らの会社にしました。


2007年現在、海南、北京、日本に事務所を持っています。
業務内容は、主に以下の3つです。
第一は、ソフトウェア受託業務、顧客の業種は、
物流・金融・ERPが多く、
主に、オラクルとモバイルフェリカが
主要な顧客だそうです。
もちろん、最大の取引先は、
親会社であったトランスコスモスであることは
言うまでもありません。
第二は、日本語IT技術者教育です。
教育のために自前の研修施設を持っており、
大学から教育を受託し、
単位を出すセミナーもあります。
元々、自社の技術者を育てる必然性があり、
ここから派生したことが本格的な事業に育ちました。
第三はソフトウェア技術者の派遣です。


■日本向けのビジネス
今回、調査企業の中から、金さんを取り上げたのには
理由があります。


お話しましたように、現在の主たる事業は、
日本からのソストウェア受託開発です。
「これから中国も経済発展と共に人件費が高騰する。
だから、コストが安いと理由で委託してくる
日本からの仕事はなくなるだろう」
と、周囲の人間からは、よく言われるのだそうです。
ところが、彼は、日本で仕事をした経験から、
そうではないと言います。
新聞でご覧になられたかもしれませんが、
日本のソフトウェア技術者は圧倒的に足りません。
経済産業省や総務省は、
将来的な不安を払拭するために、
ソフトウェア技術者を懸命に養成しようとしています。
彼は、「値段で勝負するだけでは、
会社の成長に限界がある。
自分の当面の目標は、天津にIT大学を作ることだ」
と語ってくれました。


天津には、天津大学や、南華大学という
有名な大学が沢山あります。
この卒業生で、一流のソフトウェア技術者は
沢山いるのですが、日本語ができません。
日本語ができれば、
日本のマーケットで戦っていけます。
だからソフトウェアは当たり前で、
日本語をネイティブになるくらいの人材を育てると、
ソフトウェア技術者不測で悩む日本相手の
ビジネスは絶対に上手くいく。
だから、日本向けのビジネスは、
これからも大いに期待できますよ
力強く宣言していました。


中国の大学というのは
国立大学がほとんどです。
しかも、厳しい受験戦争に打ち勝って
入学した人しかいません。
だから、ソフトウェアの技術は一流です。
ただ、ソフトウェアができて
日本語が流暢だというのは中国でも希少です。
ところで、数日前の新聞記事が掲載されていましたが、
中国のエリートというのは元来、米国志向が強く、
日本に来たいという方は5%に満たないそうです。
彼は、それを逆手にとってビジネスチャンスと
考えているのです。


私が少し悲しい気持ちになるのは、
どうして反対の発想を
日本人ができないのかということです。
ソフトウェア技術者が足りないのは
日本のことであって、中国ではありません。
だったら、日本語のできるエンジニアを
海外で養成するということを
考えても良いのではないかと思います。


中国やインドには、
単純なソフトウェアをポンと投げられて、
それを作るクオリティの
ソフトウェア技術者はいくらでもいます。
韓金光さんは、もっとハイスペックで、
日本人とより精緻に
コミュニケーションを直接とれる人材の方が
高い収入が得られる。
だから、上の方を狙って行こうという感じなのです。


日本で起業家を目指す人には、是非、
このような発想をして欲しいですね。

分野: 五十嵐伸吾准教授 |スピーカー:

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