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ものづくり競争力(高田/産学連携マネジメント)

07/10/18

今日は、日本企業のものづくりへのこだわりが
競争力にどのような影響を与えているかについて
話をしたいと思います。


9月末に北京の松下の
ブラウン管工場を訪問した時の話です。
この工場は、70年代後半~80年代前半という
ほとんどの日本企業が中国進出をためらっていた時期に、
松下幸之助氏と
当時の中国共産党書記長の鄧小平(トウショウヘイ)氏が
直接対話をし、その結果、
松下の現地進出が実現したもので、
現在でも、中国にある日系工場の中で
非常に高く評価をされています。


全くの異文化である中国で、
どのようにして円滑に工場を立上げて
生産を行なうか、
当時の関係者は全てが手探りで
たいへんな苦労をしたとのことです。
89年6月3日に
最初のブラウン管が生産されましたが、
翌日の6月4日に天安門事件が起きたりしています。
そんな状況の中、初代総経理は
次の2つの思想を大切にして立上げを行ないました。


(1)『企業の成否は人にあり』
中日双方から共に優秀な幹部を選抜しました。
また、“ものづくりの前に人づくり”ということで、
宇都宮の工場に中国人技術者250名を半年派遣し、
生産プロセスを学ばせました。

(2)『友好合作』(中外合弁企業文化の融合の重視)
経営をガラス張りにして
相互に隠し事をせず、
何でも意見を言い合える環境を創りました。
他の成功要因としては、
1つの生産ラインを軌道に乗せてから次のラインを増やす、
という堅実な戦略があります。
また、日本人幹部はたった6名のみ
(全従業員4,300人、立上げ当初でも10名程度だったとか・・)
で、あとは全て中国人でした。
中国ビジネスは中国人に任せろというのが成功の定説です。


さて、工場は順調に成長しましたが、
近年のフラットパネルディスプレイ
(液晶、プラズマ等)の急増によって
競争環境が激化する中で、
売上が伸び悩んでいたところ、
ものづくりのこだわりが転じて
収益に貢献した面白い出来事がありました。
松下の場合、ブラウン管の
製造プロセスや品質は、全て日本と同一で、
そのために工場の生産設備は、
わざわざ日本から運んで来るほどだが、
それは消費者から見ると少々過剰品質だとも言え、
結果的にコスト高にもなります。
伸び悩む売上をどう回復するかを協議した結果、
シャドーマスクという基幹部品の特殊な材料
(鉄-ニッケル系合金、低熱膨張率が必須)を、
安価な鉄板に変える方法が検討されました。
この材料を使用しても、
実際の画質への影響はほとんど無いことがわかったので、
安価な部品に切り替えることでコストダウンを実現し、
競争力を回復することとなり、
現在のこの工場の製品に導入されています。
今は、この安価なシャドーマスク材を使用したブラウン管が、
世界中(特に、アジア各国や中南米など、)に
輸出され、工場の収益に大きく貢献しています。
ブラウン管と聞くと、日本人はずいぶん時代遅れだという
印象を持つかも知れませんが、
世界にはまだ年間1億本の需要があり、
そのマーケットに対して
低コストで高品質の商品を投入すれば、
まだまだ収益を獲得することが出来ます。


もともと、日本国内の品質基準や機能には、
過剰と言えなくもないものも多いです。
ひとりよがりのものづくりへのこだわりが高コスト構造を生み、
結果的にシェアを失っている日本企業や製品も
実は多いのではないでしょうか。
従って、高レベルの品質や機能を備えた製品は、
逆にコストダウンの余地も大きいと言える。
実際、フナイ電機という家電メーカーは、
先行する日系メーカーの製品をよくベンチマークし、
そこから無駄な部品や機能を抑えた製品をアジアで安く製造し、
世界中に輸出して大きな収益を上げています。


品質を追求する日本のものづくり企業の姿勢を
高い山に例えると、
山が高いぶんだけ裾野も広くなります。
この広大な裾野には、
大きなビジネスチャンスが眠っているのです。
先端技術をふんだんに使用した
ハイテク製品の開発競争に明け暮れている企業は、
もう一度ユーザーの目線から
求められる品質や機能と捉え直す、
つまり、山の頂上だけではなく裾野も見る、
という発想でビジネスチャンスを広げてみてはどうでしょうか。

分野: 高田仁准教授 |スピーカー:

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