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産学技術移転の伝説的事例 (1)(産学連携マネジメント/高田)

07/08/15

今日は、私の専門である産学連携の
伝説的な事例についてお話ししたいと思います。
これは、1980年代~90年代にかけて行なわれた、
アメリカのスタンフォード大学の事例です。


スタンフォード大学は、ハイテクベンチャーのメッカでもある
シリコンバレーの中心にあるたいへん有名な大学です。
古くはサンマイクロシステムズやヤフー、
グーグルを生み出した大学としても知られています。


■ニルス・ライマース
このスタンフォード大学で、1960年代に
ニルス・ライマースという人が働き始めました。
この人は後に、『技術移転の父』と呼ばれるようになります。
まずはライマースについて紹介します。


ライマースはスタンフォード大学の大学院(工学)出身で、
民間企業に勤務していましたが、
スタンフォード大学に転職して、
最初は大学の事務局のようなところで
研究マネジメントの仕事に携わっていました。
しかし、大学の研究室のあちこちで
有望な技術が生み出されているものの、
それがただ学会や論文で発表されるだけで終わってしまい、
産業界が活用していなかったことに目を付けて、
大学の技術を産業界に移転する仕事を始めました。


具体的には、有望な技術について特許出願を行ない、
それをマーケティングして
民間企業にライセンスするということを行いました。
パイロット的に取り組んでみて
実現可能性を感じたライマースは、
大学を説得してOTL(Office of Technology Licensing)を設立しました。


■ライフルショット・マーケティング
ライマースの技術移転は、
“ライフルショット・マーケティング”という方法に
特徴があります。
研究者が持っている企業情報
(付き合いのある企業、学会発表時に知り合った企業など)
やいろんなところで入手可能な情報を総合的に分析して、
スタンフォードの技術に興味を示しそうな企業を
複数リストアップし、
1社ずつ、まさに“ライフルで狙う”ようにアプローチします。


このような企業への直接的なマーケティングによって、
事業の方向性、保有している技術、
欲しがっている技術、企業の風土などの分析を重ね、
“技術の目利き”力を向上させていくのです。


もちろん、このマーケティングの過程で
“狙いがはずれていた”ということも多々起こります。
でも、そこで得た情報が後で必ず役に立つので、
手間を惜しんではいけません。


■シンセサイザーの開発
例えば、スタンフォード大の音楽専攻に、
コンピューター音楽の研究者がいました。
この技術のシンセサイザーへの応用を考えたライマースは、
アメリカの古い伝統的なオルガンメーカーに
話を持ちかけました。
しかしながら、オルガンメーカーは
新しい技術に興味を示さなかったため、
ライマースは日本のヤマハに話をもちかけ、
最終的にスタンフォード大学とライセンス契約を結び、
ヤマハはその後にDX-7という
超大ヒットのシンセサイザーを世に送り出しました。
その結果、スタンフォードはヤマハから
数百万ドルのロイヤリティを得ることが出来たのです。


ヤマハが技術導入を検討したときに、
おもしろい逸話が残っています。
当時ヤマハでは
独自のシンセサイザーの技術開発を行なっており、
スタンフォード大学からの技術導入は
これと競合する状況でした。
普通はこの段階で
“うちは独自にやっているから結構です”ということで
話が終わってしまうのですが、
ライマースがどう交渉したのか、
社長の前で目隠しテストをすることになり、
その結果、スタンフォードの音源のほうが
音が良いという結果になり、
ヤマハは独自開発を止めて、
スタンフォードからの技術を導入することに決めたのです。
ねばり強く交渉したライマースと
大胆な判断をしたヤマハの当時の社長、
という役者が揃ったから実現した技術移転かもしれません。


こんなライマースが、
今でも伝説的に語り継がれる技術移転を成功させます。
次回は、この事例についてお話ししたいと思います。

分野: 高田仁准教授 |スピーカー:

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