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永田晃也教授一覧

研究開発組織とコミュニケーション(イノベーション/永田)

07/08/06

今日は、組織におけるメンバー間の
コミュニケーション、
それから研究開発組織と組織外部との
コミュニケーションが、
効果的にイノベーションに結びつく
パターンというのは、
どういうものであるのか
ということについて、
お話ししてみたいと思っています。
今回2つのキーワードを用意しております。
1つはゲートキーパー、
もう1つはリードユーザーという言葉です。


■ゲートキーパー
まずゲートキーパーについて
お話しします。
研究開発組織のメンバーが、
活発にコミュニケーションを行うほど、
色々なアイデアや情報が
メンバー間に共有されて、
組織の業績が高くなるということは、
古くから指摘されてきたことです。
しかし、全てのメンバーが
双方向のコミュニケーションを行って
完全に連結した状態になるというのは
不可能ですし、できたとしても
研究開発の効率を
決して高めるものでもありません。


すると、コミュニケーションには、
何か効率的なパターンが
存在するのだろうかという
疑問に行き当たります。
効率的なコミュニケーションのパターンとは
どんなものかということについては、
MIT(マサチューセッツ工科大学)の
トム・アレンという研究者たちによる
研究があります。
彼らは、研究プロジェクトの
メンバー間のコミュニケーションに関する
非常に詳細なデータを取って分析を行いました。
その結果、コミュニケーションのパスが
集中している研究者の存在が注目されました。
色々な人からコミュニケーションのパスを
受け取る研究者が、
存在しているということです。
そういう研究者は、
どの様な特性を持っているのかといいますと、
組織の外部の情報源に精通していて、
豊富な外部情報源から得られた技術的な情報を、
効果的に組織のメンバーに伝える役割を
担っているということが明らかにされました。
アレンたちは、そうした非公式の役割を
担っている研究者を
ゲートキーパーと呼びました。
ゲートキーパーという言葉自体は
門番という意味ですが、
彼らは技術情報を研究開発組織の中に
取り込んでいく門番としての役割を
担っているのだということです。
そういう研究者がしばしば存在しています。


ですから、
研究プロジェクトのマネジャーの立場に立って、
メンバーに効率的な
情報共有を促そうとするならば、
そういうゲートキーパーを発見して、
その役割を支援するような
体制を作ることが
重要だということになります。


なお、アレンたちは、
そうした研究の中で一つ
興味深い事実を発見しています。
それは、プロジェクトメンバーの
参加年数が5年を越えますと、
外部情報源とのコミュニケーションが減少して、
イノベーションが行われにくくなる
傾向があるということです。
これを彼らは、
NIHシンドロームと呼びました。
NIHというのは「Not Invented Here」という
言葉の略称です。
この発見は、活発なコミュニケーションを
組織の中で維持するためには、
研究プロジェクトのメンバーを、
一定期間ごとに入れ替えた方がいいという
事を示唆しています。


■リードユーザー
こういう研究は、
研究開発組織にとって
外部情報源が
非常に重要だと言うことを
明らかにしてきました。
研究開発がイノベーションに結びつく機会を、
私たちは技術機会と呼んでいます。
技術機会は色々な現れ方をします。
具体的には研究開発プロジェクトが
新しく提案されるとか、
従来のプロジェクトにおいて
問題解決が行われるとか、
そうしたことが技術機会に他なりません。
それは、研究開発を取り巻く、
色々な情報源によって提供される
機会であるということが知られています。
技術機会の源泉、すなわち情報源は、
企業の内部にもありますし、
ユーザー、サプライヤー、
あるいは競合他社とか、
大学・公的研究機関が
情報源になることもあります。
これまでの研究の中では、
特にユーザーが重要な外部情報源に
なるということが知られています。


イノベーションにおける
ユーザーの役割に注目してきた研究が、
2番目のキーワードである
リードユーザーというコンセプトを
提唱することになりました。
やはりMITの研究者ですが、
エリック・フォン・ヒッペルという人が、
イノベーションの中には
ユーザーを源泉とするものが相当な割合を
占めているということを明らかにしています。
彼の研究によると、
例えば理化学機器のイノベーションのうち、
実にその77%がユーザーの要望や、
ユーザーなりの工夫が、
新しいアイデアの源泉になって生じた
イノベーションであったとされています。
そういうイノベーションのことを、
ヒッペルはユーザー・イノベーションと呼び、
特に有益なアイデアをもたらす
ユーザーのことを
リードユーザーと呼んでいます。
リードユーザーとは、
将来の市場で一般的になるようなニーズに、
数か月とか数年先駆けて直面しているような、
そういう先見性のある
ユーザーだとされています。


ですから、ユーザーというのは
市場調査の対象になるわけですけども、
ただ、調査された時になって
初めて声を発するような
受動的な存在とは限らないということです。
しばしばユーザー自らが望ましいと思うような
解決のイメージを持っていたり、
その具体的なアイデアを展開したりする
積極的な存在でもあるということを、
この研究は教えています。
したがって、
イノベーションを追求する企業にとっては、
そういうリードユーザーを発見し、
彼らとのコミュニケーションを通じて
技術機会を獲得していくと言うことも
一つの課題となります。

分野: 永田晃也教授 |スピーカー:

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