QTnet モーニングビジネススクール

QTnet
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QTnet モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録

高田仁准教授一覧

産学技術移転の伝説的事例 (2)(産学連携マネジメント/高田)

07/08/16

今日は、前回の続きで、
“技術移転の父”と呼ばれる
スタンフォード大学OTLの
ニルス・ライマースが実現した
伝説的な技術移転事例についてお話しします。


■遺伝子組み換えの基本技術
これは、遺伝子組み換えの基本技術で、
スタンフォード大学のコーエンと
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の
ボイヤーが発明しました。


1972年にハワイの学会で出会った
コーエンとボイヤーは、
遺伝子組換え技術のアイデアを思いつき、
すぐに実験に取りかかって
実現可能であることを証明し、
翌年末に学会発表しました。


この学会発表の内容が、
たまたまニューヨークタイムズに掲載されていたのを
ライマースが見つけ、
「これは大変な技術だ!」と思い、
すぐにコーエンに会いに行きました。
特許の取得を進めるライマースに対して、
当初コーエンは、
「特許をとると、自分の技術が社会に広まらなくなるのではないか」とか
「この技術がものになるのに20年はかかるよ」とか
いろいろな理由をつけて特許出願を渋りました。
しかし、ライマースは
「この技術をきちんと社会に広げることによって、
遺伝子工学に基づいた新しい産業が生まれる」という
確信のもとでねばり強く説得し、
学会発表の1年後のグレースピリオドが切れる
ギリギリのタイミングで特許を出願することができました。


ライマースは、この技術をどのように技術移転すれば
産業界に広く受入れられてもらうかを検討するために、
メルクという製薬企業の幹部に協力を仰ぎ、
アドバイスをもらいながらライセンスの条件設定を行ないました。
その結果、契約金1万ドル、
毎年のミニマムロイヤリティが1万ドル、
そして、この技術を使った中間製品は売上の3%、
最終製品(医薬品など)は売上の1%、
生産プロセスの改善に貢献した場合は、
コスト削減額の10%のランニングロイヤリティを支払う、
といったような条件にまとめました。


■特徴的なマーケティング戦略
ここからのライマースの
マーケティング戦略にまた特徴があります。
この技術は複数の会社に
非独占的にライセンスする必要があり、
また、まずは先進的な研究者しか
興味を示さないだろうと考えられたため、
有名な“サイエンス”や”ネイチャー”といった
科学雑誌に広告を出したのです。
これは、前回述べた“ライフルショット”というやり方とは
全く異なります。
つまり、技術の特徴に合わせた
マーケティングが必要だということです。


広告には、「1981年12月15日までに申し込みをした企業には、
これこれ(前述)の条件でライセンスします」ということを書いておき、
その期限を過ぎるとどうなるかについては敢えて触れていませんでした。


この広告を見た企業は、
どういうところで使えるかどうかもよく判らないけれども、
遺伝子組み換えはこれから必要だろうと考え、
最終的に75社がライセンスの申し込みをしました。
これだけで、スタンフォードのOTLは
75万ドル(日本円で1億円弱)を手に入れたことになります。


その後、この技術が
とても幅広い場面で使えることが判った企業から
更にライセンスの申し込みや実際の製品への応用が行なわれ、
最終的には450社にライセンスされ、
250MMドル(日本円で300億円以上!)の
ロイヤリティ収入を稼ぎました。


■産業界からの不満の声がない
特徴的なのは、これだけ巨額の
ライセンス収入を得ているにも関わらず、
ライセンス条件について産業界から
一切不満の声が聞かれないことです。
事前にメルクに協力を仰いで、
無理のないライセンス条件設定に
していたことが功を奏したといえます。


■技術移転が学問を切り開く
また、当初発明者のコーエンが
“社会に広まるには20年以上はかかる”と
予想していたより遙かに早く、実用化が進みました。
これは、ライマースのスタンフォードOTLのマーケティングによって
“技術を使ってみよう”と潜在的に考えていた企業が
一気に広く開拓され、
遺伝子組換え技術の実用化に取り組んだことによる
影響が大きいと考えられます。
大学の技術移転が、「遺伝子工学」という分野を一気に切り開いたのです。


技術移転の仕事に携わっていると、
「これは将来ひょっとして・・・」と思うような
技術に時々出会うことがあります。
このときには、いつもこの
遺伝子組換え技術の事例を頭に浮かべ、
「どうすれば、大学で生まれた有望な技術をできるだけ早く、
そして広く社会に普及させられるだろうか」
という点からライセンスの方法や条件を
考えるように心がけています。

分野: 高田仁准教授 |スピーカー:

トップページに戻る

  • RADIKO.JP
  • ビビックスマホ