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年金給付と年金システム(1) (財務戦略/村藤)

07/08/10

先日の参議院選挙でも
争点になった年金問題ですが、
今日と来週の2回にわたって、
年金給付と年金のシステムについて
お話したいと思います。


この話題については、
みんな大いに盛り上がって騒いでいます。
しかしながら、その中身は、
年金制度と少子高齢化の下で、
どうやって制度設計をするかという話ではなく、
むしろ、社会保険庁が起こした不祥事に対して、
どう対処するかという話に
焦点が当たっているようです。
ここではとりあえず、
巷でどのようなことが
話題になっているのかを、
一度確認してみようと思います。


■社保庁問題の発端
そもそもの発端は、2006年6月時点で、
年金番号が分からない支払い記録が
5千万件もあったということが
発覚したことです。
そもそも1997年に
基礎年金番号が導入されましたので、
基礎年金番号に納付記録が
全て付けられているはずなのですが、
誰が支払ったか分からないデータが
それほどたくさんあったわけです。
さらに5千万件の問題とは別に、
コンピューターに入力していない記録が、
1,430万件もあるという話が暴露されたため、
この問題は更に盛り上がってしまいました。
社会保険庁とは一体どういうところなのだ、
というわけです。


国民年金保険の徴収は
もともと市町村がやっていたのですが、
2001年にその業務を
社会保険庁に移管することになりました。
その際に、社会保険庁から市町村側に
「もう名簿はいらないから持っていなくていいですよ」
ということを言ったため、
284もの市町村で「じゃあ廃棄するよ」といって
廃棄してしまいました。
そのために、これらの支払い記録について
確認の仕様がなくなり、
払ったのに払ったことを証明できない人達は
一体どうなるのかという問題が生じました。
こうした人々に対して、社会保険庁が
「確認できないから悪いけど支払いませんよ」
と言っていたということが
バレてしまって大騒ぎになった
というわけです。


■社保庁問題関連の新法案
6月30日に成立した「公務員改革法案」は、
安倍総理が会期を延長して、
政治リスクを負いながらも、
一生懸命成立させた法案ですが、
この中には「社会保険庁改革法案」と
「年金特例法案」という
2つの法案がありました。
前者の「社会保険庁改革法案」では、
最初は社会保険庁を
公務員型にしようと思っていたのを、
非公務員型でいいだろうと、
いったんクビにして
また雇うという形にしています。
また「年金特例法案」は、
政府が自分のミスで記録を失った場合に、
5年の時効があるから
払ったかどうか知らないけれども
払ってないことにしよう
と言い張るのを阻止する法律です。
これは、あまりに慌てて提出したので、
民主党が怒っていましたが、
作らなくてはいけない法案でした。


■3つの委員会
こういった問題に対して
一体どうやって対応するのかというのが、
ここのところ問題になっていたのですが、
みるみるうちに委員会が3つ出来ました。
「年金記録問題検証委員会」と
「年金記録確認第三者委員会」、
そして「年金業務社会保険庁監理委員会」です。
最初に出来たのは「検証委員会」ですが、
これは松尾邦弘さんという
前検事総長の方が座長になっている
ちょっと怖い組織です。
どうして5千万件もそんなものが出たのか、
これは社会保険庁のチョンボだと
みんな分かったのですが、
いったい誰が悪いのかということを
確認しなくてはいけないので、
元検事総長がトップになって、
悪い奴に責任を取らせるために
探してみようというわけです。


■社会保険庁の特殊性
そもそも社会保険庁というのは
少し特殊な組織で、
3層構造になっています。
1番上に厚生労働省のキャリア官僚がいて、
その下に社会保険庁採用の中堅職員、
それから地方採用の職員という風に、
だいたい3種類の人が働いています。
また、労働組合が異様に強いところで、
労働組合がトップに詰め寄っては、
いろいろな約束をさせます。
例えば、45分コンピューターを操作したら
15分は必ず休みますとか、
オンライン化をすると人がクビになるから
反対ですというような、
普通の会社では到底考えられないような
要求を労働組合が突きつけたり、
トップもそれを約束しちゃったり
というようなことが起こっていました。


■年金記録の確認に関する問題
結局、ある人が年金を納付したのか、
していないのか分からない
という状況のもとでは、
払った証拠が何かあれば、
給付しなくてはいけないだろうと思います。
しかしながら、問題は、
どうも悪い人も出てきているらしい
ということです。
実は全然払っていないのだけど、
みんな証拠がないのだから、
自分が払ったと言えば貰えるのではないか、
と考える人が出てきているらしいのです。
払っていない人に
他の人が納めた年金資金から
年金を払うわけにはいきませんから、
やはりこの人はOKで、
この人はダメということを
誰かが言わないといけない
ということになります。
そのためにどうするかというと、
中央と地方に
「年金記録確認第三者委員会」という、
第三者としての中立な立場で、
払ったかどうか確認する委員会を作りました。
ただ、その基準は中央が作っているのですが、
そこで出てきたのが
「加入者の説明に不合理な部分がなく、
 信憑性があって一応確からしい」
という基準です。
これはかなり曖昧な表現で、
当然トラブルが予想されます。


この基準については、
今後修正の手続きがあるとは思いますが、
現状の対応にも非常に問題があります。
そもそも、最初は専用電話を設けて
ここにかけて下さいと言っていましたが、
掛けてもほとんど繋がらなかったようです。
電話回線がパンクしてしまっていたのです。
それで、みんな怒り始めて
社会保険事務所に殺到しましたが、
空いているところは空いているのに、
混んでいるところは、
いくら待っても全然順番がこなかった
といわれています。
システム障害で記録が照会できない
という事件も起こりました。


■年金記録の通知について
そもそも通知はどうするのか、
年金の現状を通知しなくてはいけないのではないか
という問題が出てきました。
日本では今まで、若い世代が
自分の年金記録を確認する制度が
ありませんでした。
年を取って58歳くらいになると、
社会保険庁から年金保険料の納付履歴と、
これからいくらぐらい貰えるのか、
受給見込み額というのを
知らせる通知が送られてきます。
しかし、若い頃はそういったものが
全く送られてこないので、
これがそもそも問題なのではないか
ということになりました。
過去いくら納めたかというのを、
いつでも確認できるようにしておけば、
間違いが発見された時に修正できますので、
現状を通知しなければいけない
ということが分かってきて、
それで自民党が
年金カードを導入しよう
ということを言っています。
一方で、民主党は
年金通帳を導入したらどうか
と言っていて、
年金カード対年金通帳
という闘いが起こっています。


次回も引き続き
年金についてお話ししたいと思います。

分野: 村藤功教授 |スピーカー:

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