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地域の産業集積形成(クラスター化)の歴史と発展要因(地域経済政策/谷川)

07/06/14

■産業クラスターとは何か
まず、産業クラスターとは何かと言うことについて
説明します。
一般の人は
あまりご存じないのかもしれないのですが、
クラスターと言うのは
ブドウの房というのが直訳です。
それを模して、我々がクラスターと言う場合には、
同一業種の産業・企業を中心に、
関連企業が多く集積している地域、
これを産業クラスターと言っています。
ですから、産業集積地という
言い方で言い直してもいいかもしれません。


例えばアメリカを例にとると、
シリコンバレーやボストン地域は産業クラスターを形成しています。


■日本一、二を争う福岡の半導体クラスターと自動車クラスター
日本で有名な産業クラスターは、
福岡の半導体クラスター、
自動車クラスターです。
その他では、愛知県の自動車クラスター、
ご存じのようにトヨタなどの関連の会社があります。
それから有名な所では札幌です。
札幌は、ソフトウェアの関係の企業が多くて、
ソフトウェアクラスターと言われています。
その他経済産業省と文部科学省が認定している
産業クラスターが日本に沢山あります。


■福岡の産業クラスターはどうしてできたのか
クラスター形成の要因、すなわち
産業集積地が出来上がって行く背景には
色々な要素があるのですが、
一つは、過去に蓄積された技術をもとにした産業が、
地域内で次第に発展して新しい産業が形成される例です。
それからもう一つ、愛知県のトヨタのケースのように、
大きな企業があって、
その企業の仕事を確保しようとして、
産業、企業が集まってくると言う例があります。
ですから、大きく分けて
歴史的な技術の伝統をもとに産業集積地が出来る場合と、
ある企業が中核となって、
それに吸い寄せられるようにして出来る場合と
二つあるといえます。
九州、特に北部九州の場合は、
古くから製鉄業の伝統がありました。
製鉄業というのは総合的な技術産業で
製鉄業を支えるための部品産業など、
関連産業が沢山必要です。
そのような技術・産業が
元々北部九州にあったということから、
その技術を発展させ、
半導体や自動車関係の産業が
形成され、発展する事になった
ということだと思います。


■マイケル・ポーターほか、様々なハイテク産業クラスター形成理論の紹介
また、ボストンの例のように、
大学がクラスター形成の
要因の一つとなると言う場合もあります。
ハーバード大学に
マイケル・ポーターと言う著名な教授がいますが、
彼がクラスター形成に関して有力な理論を展開しています。
すなわち、科学技術のリソースや人材のリソースの存在が
産業クラスター形成にとって大きな要素条件だと彼は言っています。
科学技術のリソースを提供するのが大学ですし、
人材を供給するのも大学ですから、
大学のない所に、
特にテクノロジーの中心とした
産業クラスターが出来るというの
はなかなか難しいと思います。


その他の重要な要素としては、
マイケル・ポーター教授の理論ではありませんが、
投資家の役割と政府の役割などです。
つまり事業をおこなうには資金を供給する存在が
必要です。
また政府は様々な企業が市場に
入り易くするための法律を作ったり、
補助金制度を作ったりするという役割があります。
投資家、それから政府、
さらには企業をサポートするための企業群、
こういったものが存在することによって
産業が集積すると言われています。


■アメリカのハイテククラスターの事例
何と言っても有名なのは
シリコンバレーです。
シリコンバレーは戦後早めに、
IC産業が興り、そしてパソコン産業が興りましたけども、
その後インターネット産業が興っています。
シリコンバレーはGoogleや、Yahooや、eBayなどの
有力なネット関係企業の本社が置かれています。
そういう意味で、
シリコンバレーはIT産業、
特に今は、ネット関係の産業集積地として
有名です。
それから、ボストンの周辺ですが、
ここはバイオテクノロジーの企業が大変多い所で、
バイオ関連産業の集積地になっています。
その他に、サンディエゴという、
カリフォルニアの一番南端にある
メキシコとの国境の大きな町では
通信関係の産業や
バイオ関係の産業が集積しています。
このほか言い尽くせないほど、
沢山のハイテククラスターが
アメリカには存在しています。


なお今言ったような、
大学、中核企業、人材、政府などの
要素条件の存在だけではクラスター形成は難しく、
それを繋ぎ合わせるネットワーク、
すなわち相互の連携が大変重要です。
その意味で、クラスター内部におけるこれらの要素同士の
ネットワークが大変重要です。
もう一つ忘れてならないのは、
シリコンバレーで顕著なのですが、
クラスターの存在する地域の文化(カルチャー)や風土です。
良い技術、良い人材であれば、
若かろうが移民であろうが、
それを使って、
競争力のある新しい事業を興そうといった、
実力主義でオープンな文化が大変大事だと思います。
誰でもどんな人でも優秀であれば採用される、
また良い技術であれば採用される、といったような、
文化風土がなければ
良い要素があっても、クラスター形成は
うまくいかないと思います。


日本ではそのような実力主義で
オープンな文化がまだ確立されていません。
これは大変大きな問題です。
アメリカと日本と比べると、
日本にせっかく良い技術とか人材があるのに、
なかなかアメリカの経済に対して、
追いつき得ないというのは、
その文化の差が一番大きいと思います。
九州にも同じ問題があると思っています。
この点を何とかしたいと思うのが、
私の今の大きな、大学の教員としての
仕事だと思っております。

分野: 谷川徹教授 |スピーカー:

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