QTnet モーニングビジネススクール

QTnet
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QTnet モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録

岡田昌治准教授一覧

QTnetモーニングビジネススクール > 岡田昌治准教授一覧

ベンチャー育成 (企業法務/岡田)

07/06/11

前回まで、
法律やMBAについて
お話ししてきましたが、
今回はベンチャー企業について、
特にベンチャーの起こりについて触れながら
お話ししたいと思います。


■アメリカの国家戦略としてのベンチャー育成
いわゆる日本語でいうベンチャー企業は、
英語に直すと
「スターティングアップ・カンパニー(starting up company)」
といいます。
私は’94年にニューヨークから帰ってきて、
特にインターネット系のベンチャーとの
付き合いが多かったのですが、
そもそもアメリカにおいて、
いわゆるシリコンバレーやボストン
あるいはダラスなどに、
そういったベンチャーが出来てきたのは、
実はアメリカの国家的な戦略なのです。


1980年代の終わりに、
アメリカのいわゆる国家競争力、
特に経済的な競争力は、
ご存じのとおり非常に落ちてきたと
言われていました。
当時のクリントン大統領は、
それがどうすれば回復できるのか
悩んでいました。
かたや日本を見てみると、
当時はバブルの絶頂で、
アメリカを買いまくっていた時代です。
その時にクリントンが考えたのが、
次に来る世界、
実はそれがインターネットだったのですが、
そこでのイニシアティブを取ることです。
そこで必要になったのが
いわゆるアプリケーション・ソフトを含む
情報ハイウェイでした。


■情報インフラと企業家
情報ハイウェイとは、
いわゆるNII、
すなわち全米情報基盤
(National Information Infrastructure)です。
NIIの構築にあたっては、
当時の副大統領だった
アル・ゴア(Albert Gore)が法案を提出し、
そこからプロジェクトが進められました。
そのプロジェクトと並行して、
IT経営のアプリケーション・ソフトなど、
いわゆるITに係わる知的財産で
アメリカがリードするために、
国を挙げてのベンチャー支援が
行なわれたのです。


そのひとつの典型がシリコンバレーでした。
インフラだけではなく、
当然そこにはプレイヤーも必要だという考えが
もともとあったのです。
当時で言うと、
皆さんよくご存じの、
スティーブ・ジョブズとか、ビル・ゲイツ、
そういうスタープレイヤーもいました。
ジョブズを先に出したのは
ちょっと理由があって、
私はどっちかというと
ジョブズの方が好きなんですが、
実は二人とも同い年なんですよ。
ちなみにマイクロソフトは、
今でこそ10兆円という
本当に巨大な企業ですが、
元々はIBMの下請けでした。


■ビル・ゲイツの起業
当時ハーバードにいたビル・ゲイツは、
こんなかったるい勉強はしていられないと
ハーバードを中退してシアトルに戻り、
コンピューター・プログラムを作り始めました。
最初はIBMの下請けをしていましたが、
’83年ぐらいに
自分の会社であるマイクロソフトを
シアトルで立ち上げました。
ジョブズもそうですが、
ガレージビジネスと言うことで
最初はガレージから企業を始めています。


マイクロソフトの場合は、
最初の頃はニックネームで
「チキンファーム」というふうに
言われていました。
なぜかと言いますと、
ビル・ゲイツがシアトルで自分の会社を作った
現在マイクロソフトの本社がある
ベルビュー(Belleville)という所は、
昔は山の中で養鶏場があったのですが、
その養鶏場のおばあちゃんを上手く説得して、
そこに小さい会社を作ったからなのです。
それが今のマイクロソフトのヘッドクォーター、
いわゆる「キャンパス」と呼ばれている所です。


マイクロソフトはそこから
どんどん大きくなりました。
ウィンドウズがインターネットの世界と
上手く噛み合ったというのが、やはり、
マイクロソフトが成功した理由の一つでしょう。
それから、マイクロソフトの
もう1つのニックネームですが、
ドラッガー(薬の売人)と呼ばれていました。
ウィンドウズという基本ソフト、
OS(Operating System)を
安く配りまくって、
その後でより高いアプリケーション・ソフトを
売りつけるからです。


■アメリカにおけるエンジェルの役割
そういうやり方でベンチャーは
どんどん育っていくわけですが、
私はアメリカのベンチャーとも
何社か付き合いましたが、
基本的に彼らは本当に
死に物狂いでやっています。
しかも、明日生き続ける金が
入るかどうかも分からないという世界です。
ただ、そういう環境の中で
まさに天使が現れます。
それは「エンジェル」と呼ばれる人々です。
金を持っていて、
その分野の専門知識やビジネス経験を持っていて、
ヒューマンネットワークを持っている人間、
これをエンジェルと言います。
エンジェルというのは、
例えば1億円ぐらいのチェック、
小切手をさっと切って
その貧しいベンチャーに渡してくれる、
まさに本当のエンジェルです。
それはもちろん投資のためなのですが、
そういうエンジェルたちがいるという事こそ、
アメリカのベンチャー
すなわちスターティングアップ・カンパニーが
育っていった理由の一つでしょう。
日本ではちょっと考えられません。


三木谷さんがやっている楽天など
例外はありますが、
基本的には、日本のベンチャーは
零細企業の一つというイメージが強いと思います。
日本のベンチャーが育たない理由の一つは、
そういうエンジェルがいないことです。
では、エンジェルがいなければ
どうすればいいかというと、
バーチャルのエンジェルを作ればいいわけです。
どういう意味かというと、
お金だけを持っている人、
それから専門知識だけ、
あるいは、ビジネス経験だけがある人、
お金はないけど、
人的な、企業のネットワークを持っている人、
あるいは政府系、行政のネットワークを持っている人で
グループとしてのバーチャルのエンジェルを
作ればいいのです。
アメリカの場合は、
エンジェルと呼ばれる人が
これを一人でやってしまうわけですが、
残念ながら日本はそういう人がいないので、
それぞれの分野で自分の強みを持っている人達が
一緒になればいいのです。


■日本のベンチャー育成の欠点
ところがいくつか問題があります。
日本にも行政などが
サポートしてくれる例はありますし、
お金を持っている大企業あるいは個人が出資して
ファンドを作っている例は
九州なんかにもあります。
しかしながら、
行政や大金持ちが
ベンチャー育成に参加したとしても、
彼ら自身がベンチャー精神を
持っていないのです。
要するに行政の人、
あるいは大企業の人が
そういう挑戦(これこそがベンチャー)に
参加する場合には、
彼ら自身もベンチャー精神を
持たなきゃいけません。


失敗してもそれを恐れない。
例えばそれを失敗したことによって、
自分が大企業をクビになる。
あるいは行政をクビになる。
その覚悟がなければ
絶対にそういうことは出来ません。
ベンチャー精神というのは
その小さな企業、
ベンチャーの人間だけが持つ物ではなくて、
それをサポートしている人間一人一人が
持たなければならないのです。


もう一つ大事なのは、
ベンチャーを見抜く目を持った人がいない。
ですから日本の場合、
ベンチャー企業はたくさん出てきますが
失敗例が多い。
例えば、アメリカの場合は、
何を見るかというと
社長の人間力を見ます。
ほんとうにその会社の社長を
任せるだけの器かどうか、
また、彼らも得てして人間ですから、
私欲が働いて、大金をつかんだら
皆それを使いたがります。
そういう人間かどうかの見極めを
エンジェルがやるのです。
そこで社長がそういう人間だった場合は、
早速エンジェルがその社長のクビを切って、
他の人を連れてきます。
それが出来る人が
日本にはあまりいないのです。


■一人一人がベンチャー精神を持つことが大切
一人一人がベンチャー精神を
持たない限りは、
日本にベンチャーは馴染まないし
育たないでしょう。
いわゆるベンチャーというのは
千三(せんみつ)と呼ばれています。
要するに0.3%の成功率です。
ですから、
一つや二つ失敗するのは
当たり前なのですが、
さらに一つ二つ失敗してしまうと、
大企業は大体のファンドから
手を引いてしまいます。
100%安全な物じゃないと
彼らは先に進まないのです。
特に行政はそうでしょう。
だから、そもそも0.3%の成功率の世界で、
100%を要求するということをやってしまう。
そういうことが、
やはり大きな間違いなのです。

分野: 岡田昌治准教授 |スピーカー:

トップページに戻る

  • RADIKO.JP