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五十嵐伸吾准教授一覧

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イノベーション(ベンチャー企業/五十嵐)

07/05/02

前回は、シュンペーターの
「資本主義はその成功によって滅ぶ」という言葉から、
資本主義から社会主義へ移行しないという
彼の理論の一つを確認しました。
今回は、具体的にどのような方策を取れば、
資本主義が繁栄するのかを確認します。


結論を先に言えば、
シュンペーターは
「創造的破壊」を提唱し、革新的起業家による
新機軸(技術革新、イノベーション)によって
古い均衡が破壊され、新たな経済成長の
パターンが創出され、これが継続できれば
資本主義は繁栄すると述べています。
つまり、イノベーションが起これば
資本主義は繁栄し
社会主義には移行しないということです。


■シュンペーターによるイノベーションの定義
イノベーションは
「技術革新」と邦訳されることが多いです。
しかし、実は経営学の世界では、
イノベーションはより広い概念になっています。
シュンペーターはイノベーションの定義として
次の五点を挙げています。
(1)新製品の産出
(2)新生産手段の導入
(3)新市場の開拓
(4)原材料・半製品の新しい獲得源
(5)新しい経営組織の達成


技術革新というと、
テクニックのことだけを考えてしまいますが、
会社の経営の手法なども含めて定義されています。
イノベーションというと、
理系の人しかできないというように思いがちなのですが、
マーケットを見つけてみたり、原材料を入れ替えたりと、
それもイノベーションということになるので、
このように考えると、もしかすると
誰にでも出来ることかもしれません。
要するに、従来とは異なること、
従来の延長線上にはないことに取り組んで
成果を出すことがイノベーションであり、
必ずしも技術の革新を伴うとは限りません。
そして、これを遂行するのが起業家です。


シュンペーターは
イノベーションの例として、
馬車から鉄道への移行を挙げています。
つまり、蒸気機関という技術が
世の中を変えたわけではなく、
蒸気機関を使った鉄道という新しいものが生まれ、
馬車にとってかわり、世界を一変させました。
つまり、イノベーションは蒸気機関の発明ではなく、
鉄道の方で起こったといえます。
同じように、
インターネットという技術の開発は「発明」であって、
その後、インターネットのブラウザが開発され、
実際にインターネットを通じた新市場の開拓し、
新しい商流を実現することが
「イノベーション」と捉えられるのです。


■イノベーションの機会を捉えるための7つの視点
リスナーの皆さんに
イノベーションを認識するためのヒントとして、
一昨年亡くなられた著名な経営学者
ピーター・ドラッガーの言葉を紹介します。
彼によれば、イノベーションの機会を捉えるためには
次の7つの視点があるとされています。


(1)予期せぬ成功と失敗を利用する
(2)ギャップを探す
(3)ニーズを見つける
(4)産業構造の変化を知る
(5)人口構造の変化に着目する
(6)認識の変化をとらえる
(7)新しい知識を活用する


1つめは、これは誰にでもあることですが、
「予期しなかった成功や失敗を利用する」ことです。
どうして失敗したかというその理由がありますから、
その理由を突き詰めていくと、
他には出来なかった何か新しいやり方が見つかります。
失敗は成功の母であるとよく言いますよね。


2つめは、「ギャップを探す」ということです。
昔、江戸時代後期に、長州藩は丁度、
西回りと東回りの廻船の中継地でした。
そこで、大阪や江戸の米相場を見ていて、
相場が高いときに的確に米を送ってあげただけでも、
ビジネスになりました。
ですから、価格の差や原材料の需給の差などを、
十分考えると新しいビジネスのネタになります。


そして3つめが、よく言われることですが
「ニーズを探す」ということです。
消費者個人が、本当に自分の欲しい物を
知っているかというと、
そうではなくて、何らかの提示を受けた場合に、
こういう物が欲しかったのだと気付くこともありますので、
わずかな徴候などをいかに敏感に察知するか
といったことも大事なことです。
さらにこちらから情報を提供して誘導するということも、
ニーズを引き出すということになりますから、
方法論としては大事なことだと思います。


そして4つ目が「産業構造の変化を知る」ということです。
端的な例はインターネットだと思います。
それまでは例えば百貨店などの流通業が盛んに行われていて、
インターネットが登場したタイミングで、
今のようにアマゾンみたいな会社が横行するということは
誰が予想できたかということです。
ビジネスも、今までは、手売りしかしなかったものが、
相当大きく商圏が変わりました。
インターネットによって問屋などの中間的な物がなくなり、
ダイレクトにお客さんのニーズが
吸い上げられるということになってきますので、
そういったことは
十分に考えていかなくてはいけないと思います。


そして5つめは、
「人口構造の変化に着目する」ということです。
これは昨今であれば誰でも認知することですが、
高齢社会化が進んでいます。
人口構造なんて年齢構造見ていれば分かることで、
将来的に団塊の世代が老人になるということは、
団塊の世代が生まれたときから分かっていたはずです。
だから、今頃高齢者向けビジネスというのは、
ちょっと遅すぎるかもしれません。


そして6つめが
「認識の変化を捉える」ということです。
これは、マーケティングの手法にも似ていますが、
例えば、トヨタの昔の戦略というのは、
最初はカローラでいつかはクラウンと、
年齢構造と同時に需要が変化していくというような売り方でした。
ところがホンダは違う方法でビークルやバンを売りました。
色々なライフスタイルが生まれてきて、
それに向かって売るという方法を取ったのです。
ですから、年齢層に合わせた技術開発のやり方と、
それからライフスタイルに合わせた商品の開発というのは、
全く違ってきます。


そして、最後に
「新しい知識を活用する」ということです。
これは、技術革新のことです。
新しい技術が世界を作るという事はよくある話ですが、
ドラッガーに言わせると、
技術革新によって最も難しいのは「作る」ことで、
ギャップを見つけることのほうが身近にあって
見つけやすいのです。


イノベーションというと、
どうしても技術革新ということになってしまいがちですが
実は技術革新によるイノベーションが最も難しいことなので、
それは必要ですが、
それ以外にでもたくさんイノベーションのネタというのが
転がっているということを、
皆さんには是非とも考えて欲しいです。

分野: 五十嵐伸吾准教授 |スピーカー:

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