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サプライ・チェーン・マネジメント (1) (ロジスティクス/星野)

07/04/09

最近、
「サプライ・チェーン・マネジメント
(Supply Chain Management、SCM)」
という言葉を見かける機会が多くなってきました。
新聞などでは注釈がつくことなく取り上げられていますし、
書店ではサプライ・チェーン・マネジメント関連の本で
ひとつの棚が埋め尽くされています。
今回はこれについて解説をします。


■サプライ・チェーン・マネジメントとは
例えばある製品を
手に入れるまでのプロセスを考えてみると、
製品を製造することに必要な部品や
原材料を調達する段階、それらを使って生産する段階、
そして生産した製品を顧客に送り届けるという段階があります。
これら全体の流れは、サプライ・チェーンと呼ばれています。
そして、このサプライ・チェーンを効率的に管理することが、
サプライ・チェーン・マネジメントになります。


■プロダクト・アウトからマーケット・インへ
1970年代くらいまでは、
メーカーが作ったものを顧客に供給する
という一方通行の流れでした。
これをプロダクト・アウトといいます。


しかし最近では、
メーカーは顧客が望むものを供給する、
すなわちマーケット・インの発想が求められています。
企業はそのような顧客のリクエストに沿って
製品を供給することが求められ、
それを製造するために部品や原材料を
集めるというように、流れが
両方向、双方向になってきています。


■良いサプライ・チェーンを構築する
例えば
自動車を購入したいと考えて、
近くのディーラーに行ったとします。
あるディーラーでは納期は3週間ですといわれ、
別のディーラーでは1週間だといわれるとします。
もし、欲しい車種やグレード、
価格といったものがほぼ同じであれば、
おそらく1週間といわれた方を誰でも選ばれるでしょう。
このような購買行動は、
自動車に限らず洋服や本などでも同じだと思います。


それでは、なぜある店では
納期が短く、別の店では長いのでしょうか。
納期の短いお店では、
顧客の求める商品を予想しながら、
十分な在庫を持っているからかもしれません。
つまり正確な需要予測がなされていることになります。
あるいは、顧客の注文に対して、
メーカーから商品を取り寄せるプロセスが
スムーズなのかもしれません。
このような会社はサプライ・チェーン・マネジメントの
優れたシステムができている企業であるといえます。


自動車の例に戻りますと、
自動車というのは一般的に
3万点近い部品の集合体といわれています。
顧客の求めるグレードや色やオプションを付けた
自動車を販売するためには、必要な部品を国内、
海外の様々なサプライヤーから迅速に集める必要があり、
これを効率的に管理する方法が求められます。


例えばそれぞれのサプライヤーから
製造するメーカー、ディーラーまでを含めて、
必要な情報を共有することも必要でしょう。
顧客がどのようなものを望んでいるのかといった
需要予測を常に意識しながら発注できる体制を
構築することや、作ったものを効率的に
出荷する輸送体制を整えるといったことで、
優れたサプライ・チェーン・マネジメントが
構築できると考えられます。


■国際化がサプライ・チェーンに与える影響
サプライ・チェーンが
国内で完結する時代には、
これらの管理は比較的楽でした。
つまり、国内で調達した部品を使って製造した商品を
国内の市場で顧客に販売するのであれば、
チェーンはそれほど長くはならず、複雑にはなりません。


ところが現在では、
多くの企業がグローバルに事業を展開しています。
例えば、部品や材料は開発途上国で調達し、
中国でアセンブルをして、欧米や日本の市場に
出荷するといった形態も珍しくはありません。
そのようになると、
サプライ・チェーンはますます長く、複雑になります。
また、国境を何度も越えるような形になり、
輸送費や安定供給に関するリスクが高まることから、
よりサプライ・チェーン・マネジメントを
うまく行うことが求められます。


■サプライ・チェーン・マネジメントが競争力を生み出す
最近若干のかげりが
見えてきたとはいえデルコンピュータのデル・モデルは、
サプライ・チェーン・マネジメントにおける
古典とも言える成功例です。同社がなぜ
世界のパソコンシェアでNo.1を獲得できたか、
それはおそらく他社よりも優れた商品を
市場に送り出しているからではないでしょう。


デルコンピュータは、
オンラインで顧客の望むディスプレイや
ハードディスクやソフトウエアが組み込んだ
自分に合った性能のパソコンを注文すると、
5日以内に配送されるというシステムを
2000年前後には既に完成させていました。
その当時、競合企業が同じことを行うと
同社の2.5倍から3倍のリードタイムを要したと思われます。


顧客の発注情報は、
デルコンピュータだけではなく、
同時に部品のサプライヤーや配送を請け負う
フェデックスで共有されます。その情報に基づいて、
迅速にサプライヤーから部品が
フェデックスによりデルの製造拠点に届けられ、
それらがパソコンに組み立てられて、
またフェデックスの手で顧客に配送される仕組みです。


このシステムにより、
顧客はマスカスタマイゼーションといわれる
自分の求める性能や仕様の製品を
大量生産のモデルと同じ価格で
手に入れることが可能になりました。
そしてこれを5日以内に配送するシステム、
まさにサプライ・チェーン・マネジメントというものを
他社に先駆けて構築したことが、
同社の大きな強みであったと思います。


現在、ものづくりというのは
トヨタ自動車を中心として、
いかに安く、効率的に製造するかということが
注目されています。ところが、
ロジスティクスというのは、
それほど多くの企業が手を付けていない分野です。
そのため、その重要性を認識して
他社よりも一歩でも先に出るということは、
競争優位性につながるということになり、
これから非常に重要な分野になるのではないかと思います。

分野: 星野裕志教授 |スピーカー:

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